独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3142】

 

この模様は YouTube で具に確認できて―

 

Q :  When they decided they wanted to volunteer for this project.

 

という質問には本当の「ちょうど真中」 in the middle のグリソムから―

 

Let's start in the middle with Brother Grissom.

 

と、始められております。

 

 

その1270

 

今の感覚からは奇妙に映ることに、マーキュリー7のお披露目(Press conference  Mercury Astronauts  April 9, 1959)のひな壇上には灰皿が並べてあり(「ライトスタッフ」では水差ししか置いてない)、各人が(名前を紹介されるのも待たず)平然とタバコをふかす。 (どころか、司会 Walter Bonney からして吸いながら進行してるし、同席の要人 Don Flickinger も何ら憚ることなく―といった有様なので別に無作法でも何でもないのだろう)

 

それを指摘され―

 

Q : I notice that the three gentlemen on our left have been smoking. I wonder what they are going to do for a cigarette when they get up there? 左の 3 名(スレイトン、シェパード、シラー)はタバコを吸ってるが、宇宙ではどうするつもりか?

 

司会 : Randy, you might tackle that one. この問題についてはラブレース博士―

 

博士 : I think they are mature men and we will leave it up to them in large part. Of course we have a few months for an indoctrination program. 皆さん オトナなので任せましょう 教化月間は設けますけど (会場 笑い)

 

その冗談めかした締め付けどおり、もともとクーパーだけは習慣がなく、他の 6 人もタバコと縁を切った―という(あくまで)タテマエだった。 (>マーキュリーではホットドッグだけがノン・スモーカーで、他の連中は表向きでは禁煙してたが、フライト前に こっそり一服してたりしたらしい―その281)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3141】

 

名作「ライトスタッフ」は当然 かたぶつ海兵(グレン)を定石どおり不動のセンターに据え、分かりやすく左(手前)に空軍アスホール・トリオ(グリソム クーパー スレイトン)、右に海軍チーム(カーペンター シェパード シラー)とグループ別に配置し、それにより隣同士のグリソムとクーパーが―

 

ク:I don't believe this. 大した男だぜ(よく言うぜ)

 

グ:But look at them out there. They're eating it up. 見ろよ 皆大喜びだ

 

などと会見中に私語を交わせるように脚色する。(実際はグリソムとクーパーがグレンを挟んで坐っていた)

 

この辺も原作にもとネタがあって―

 

But when it becomes the turn of the guy sitting on Gus's left, John Glenn, the only Marine in the group—it's hard to believe. This guy starts turning on the charm ! He has a regular little speech on the subject.(The Right Stuff)

 

ところが、ガスの左隣りにすわっていた唯一人の海兵隊ジョン・グレンの番になったとき、信じられないようなことが起った。この男は記者たちを魅了、、しはじめたのだ! こういう話題についてじつに申し分のない短いスピーチをやってのけたのだ。[中公文庫]

 

 

Jesus Christ—share it, brother. You can see the boys cutting glances from either end of the table up at this flying churchman Gus is sitting next to. They're seated in alphabetical order, with Scott Carpenter at one end and Deke Slayton at the other and Glenn in the middle.(ちぇ―いい加減にしてくれよ、兄貴。ガスの隣りにすわっているこの熱烈な飛行士信徒に、テーブルの両端から刺すような視線がちらちら向けられた。アルファベット順にすわっていたので、両端にはスコット・カーペンターとディーク・スレイトンがいて、グレンはちょうど真中になる。)

 

かかる文脈での in the middle を「ちょうど真中」というつもりでペンを滑らせた―とは、さすがにトム・ウルフでもありそうにない…(こともないか?)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3140】

 

その 690―         

 

もともと原作には NASA 長官の T・キース・グレナンが―

 

さて、向って右から、マルカム・S・カーペンター、リロイ・G・クーパー、ジョン・H・グレン・Jr.、ヴァージル・I・グリソム、ウォルター・M・シラー・Jr.、アラン・B・シェパード・Jr.、ドナルド・K・スレイトン… 以上わがマーキュリー宇宙飛行士の諸君であります! [中公文庫]

 

と紹介するクダリがあって、ここからも一目瞭然 アルファベット順なら「ちょうど真中」はグリソム― グレンは その隣(右から 3 番目)です。

 

実際に(その会場のではないけども)当日に撮った(と思われる)写真を見ると、7人がスーツ姿(←本当にグレンは蝶ネクタイなのが笑える)でアルファベット順に並び立っており、言うまでもなく中央はグリソムで、その隣がグレン。

 

従って、原作の 「グレンはちょうど真中になる」 は、トム・ウルフが(いつもの調子で)筆をすべらせたか、または何らかの誤訳に違いないと推定できる―

 

なのに、こんな単~純な食い違いを見落として、我ながら浅慮にしてオソマツな早とちりを… (←ざっと拾い読みしかしてない弊害か)

 

 

その1282

 

トム・ウルフが筆をすべらせたか、または誤訳か

 

原文は―

 

They're seated in alphabetical order, with Scott Carpenter at one end and Deke Slayton at the other and Glenn in the middle.

 

この in the middle を 「ちょうど真中」 とするのは >誤訳 とは言えないにしても、やや勇み足の嫌いはあろう。

 

トム・ウルフは >筆をすべらせた と言うより、グレンの概観的な位置を「中央辺り」(両端から 3, 4 番目)くらいの意味合いで in the middle としたとも受け取りうる。

 

なのに、「ちょうど」なんて勝手に決め付けた訳のほうこそ(勇み足が)すべってるのかも。(グレナン長官が紹介する7人の席順を正しく既述した上のことなのだし)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3139】

 

グレンは意外にもセンターじゃなかった件―

 

その 568  (2005/ 2/ 8)

 

お披露目シーンにおける ジョン・P・ライアンのセリフは 原作にキース・グレナン(NASA 長官)の言葉として出てるんですが、違うとこは 7人を紹介する順番(席順)[ 字幕 ヴァージル・I・ガス・グリソム リロイ・ゴードン・クーパー ドナルド・K・スレイトン ジョン・H・グレン Jr. マルコム・S・カーペンター アラン・B・シェパードJr. ウォルター・M・シラー Jr. ] で、実際はアルファベット順でした。

 

それでも映画同様、やはりジョン・グレンが中央で、その点は史実通りだった―と言うか、もともとが上手い具合にグレンが中央になるから、体よくアルファベット順ということにしたんだろうなと勘繰ってますけど、わたしは―グレンが中央でありさえすればよかったんだろうと。

 

「宇宙に一番乗りするのは?」と訊かれて全員が手を挙げるシーンの本当の質問は「宇宙から生還できると確信しているかたは?」("Could I ask for a show of hands of how many are confident that they will come back from outer space ? ")という(いささか不躾にして不穏当な)ヒネッたもので [スクリプトはそのとおりなっている]、それに応えて 7人は一斉に手を―中央のグレンだけは しっかり両手を挙げたのでした。 (←ここで唐突にヘンデルハレルヤ・コーラスがかぶさるのは、原作で そういう喩え方をしてるから) [ 男らしい勇気、正しい資質(ザ・ライト・スタッフ)―長老教会派の執事グレンがハレルヤ・コーラスの指揮をとり、そのまわりに後光が射して、彼はすっかりそれに参ってしまったのだ。 Manly courage, the right stuff—the Halo Effect, with Deacon Glenn leading the hallelujah chorus, had practically wiped the man out.  ]

 

この「宇宙に一番乗りするのは?」(Which one of you will be the first into space ?)とアレンジされた質問は、後のシーンで繰り返されて、それはチンプのハムだったというオチがくる―その伏線的なセリフになってもいますね。

 

 

その 689  (2005/ 7/22)

 

ところで、あれやこれやのマーキュリー7の画像を見ていて、今更ながらに何とも迂闊だったと気が付いたことがありまして―

 

その 568 に書いたように、マーキュリー7お披露目の席順は原作に 「アルファベット順にすわっていたので、両端にはスコット・カーペンターとディーク・スレイトンがいて、グレンはちょうど真中になる」[中公文庫] と(きっぱり)明言してあり、わたしとしたことが(不用意にも)これを鵜呑みにし―

 

>グレンが中央でありさえすればよかったんだろう

 

と、さも見透かしたようなことを申しましたが、この浅はかな勘繰りは全面的に撤回させていただかねばなりません。

 

なぜなら意外や意外、正しくはグレンが「ちょうど真中」では全然なかったのだから。

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3138】

 

その1265~1266

 

ジャックリーンが(気を利かせて)ケネディに勲章をシェパードの胸に着けてやりなさいと声をかけると、ルイーズと母親が嬉しそうに(「まあ、すみません」と)ジャッキーに顔を向ける。(ように見える)

 

NASA Distinguished Service Medal をケネディ手ずから着けてもらったシェパードの(どや)顔―

 

 

同様に(ローズガーデンで)ケネディから授章されるゴードン・クーパー(家族同伴)の映像もあるけれど、検索するまでもなく ガス・グリソムのそれはない。

 

やはりグリソムにもケネディに(おざなりでもいいから)称えてもらいたかった…

 

 

1965年 グリソムはモリー・ブラウン(ジェミニ 3)でリバティベルの汚名を雪ぎ、ようやく(「ライトスタッフ」でもベティが訴えていた)貸しを返してもらう。

 

ホワイトハウスで大統領(ケネディの後任のジョンソン)から勲章を授けられ、ファミリーも招かれ歓待された由―

 

40th Anniversary of Mercury 7: Virgil Ivan "Gus" Grissom

 

The flight was followed by an enthusiastic reception and parade at Cape Kennedy. The following day Grissom and Young, accompanied by their families, flew to Washington. President Lyndon Johnson awarded both men NASA's Distinguished Service Medal. "For me, personally, the finest award I received was the opportunity for my wife and two sons to meet and shake hands with the President of the United States and Mrs. Johnson and with Vice President Humphrey. It was, I know, a moment that Scott and Mark Grissom will remember for the rest of their lives." Ticker-tape parades in New York and other cities followed.

 

この the finest award I received was the opportunity for my wife and two sons to meet and shake hands with the President of the United States and Mrs. Johnson にグリソムの感慨が(ひしひしと)分かる―もっとも、ベティにしてみれば Mrs. Johnson は Mrs. Kennedy  だったはずなのだろうが。

 

 

パトリック空軍基地の授章式シーンでの(すっかり当ての外れた)ベティとグリソムのやりとり―

 

B : Aren't we going to the White House?

 

G : No.

 

B : Isn't the President coming?

 

G : No.

 

B : No ticker-tape parade in New York?

 

G : Uh-uh.

 

B : No Jackie?

 

 

※ No ticker-tape parade in New York もとネタ(原作)―

 

This was going to be it!—a reception out on this brain-frying slab! There was going to be no trip to the White House. Webb—not John Kennedy—was going to give Gus the Distinguished Service Medal… under a dreadful Low Rent tent here on the slab. There was going to be no parade in Washington, no ticker-tape parade in New York—not even a parade in Mitchell, Indiana. That… Betty would have loved. To come back to Mitchell and parade down Main Street… But Gus would be getting nothing, just a medal from James E. Webb. They couldn't do this to her!—they were reneging.(The Right Stuff)

 

これがそうなんだわ―脳みそがフライになりそうな滑走路での祝賀式なんだわ! ホワイト・ハウスに招待されることもない。ジョン・ケネディではなく、ウェッブが殊勲章を…このみすぼらしいテントのなかで…ガスに渡すんだわ。ワシントンでパレードが行なわれることも、ニューヨークで紙吹雪が舞うことも、インディアナのミッチェルでのパレードすらないんだわ。それがベティの夢だった。ミッチェルに帰り、メイン・ストリートをパレードしたかった…でも、ガスはジェームズ・E・ウェッブから勲章をもらうだけで、他には何ももらえないのね。それにしても私にこんな仕打ちはひどい! 契約違反だわ。[中公文庫]

 

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3137】

 

その1262~1264

 

叙勲シーンに合成されてる記録フィルム(の全容)は YouTube でも見られ、実際はシェパードと並んでルイーズ(その横に母親)がいて、取り囲むようにしてる他のマーキュリー 6 の奥方は(当然)一人もいない。

 

あそこで、うっかりケネディが落とした(とっさにシェパードも一歩出て拾うとし、慌ててウェッブが拾い上げる)NASA Distinguished Service Medal を―

 

"this decoration,which has gone from the ground up… here."

 

と笑わせる即興ジョークの字幕―

 

「着地した勲章を贈ります」(レンタル)

 

「落下した勲章を授けます」(NHK

 

むしろケネディは訳とは逆に(首尾よく打ち上げられた―拾い上げられたことに)シャレているようにもあり、シェパードが伝えるところによると、後ろにいたジャックリーンが―

 

"Pick it up, Jack."

 

と即座に小声で命じたんだとか。 (映像を見る限り、かすかにジャッキーの口が開いてるような、開いてないような)

 

式中 ケネディは勲章を単に手渡しただけだったのに、シェパードのスピーチが終わるや、その胸に着けてやる―ジャッキーに(はっきり映像で確認できるが)そうしろと促されて。

 

シェパードの誇らしげで嬉しそうな顔― smilin' Al !

 

 

その 282 (2004/ 1/23)

 

で、本物のグリソムは、実は何を隠そう(って、周知のことですけど)、ちゃんと「ライトスタッフ」に登場しておりまして―

 

フリーダム7の打ち上げ直前のシーンには記録フィルム(archive footage)も使われてるが、スペーススーツのアラン・シェパードの後から黒のスーツ姿のおっさんがバンから降りてきてエレベータに乗り込みますね、あれがガス・グリソム―本物の。(←はっきりとは顔は見えないけど、背格好で確かに判ります、おっ、グリソムだって―間違いない)

 

ついでに言うと、シェパードがケネディから(落っことした) NASA Distinguished Service Medal を頂戴するシーンで、大統領の後ろ(に本物のアホのジョンソンが見えるが、その横)でボ~と突っ立ってるのが本物のスコット・カーペンター―あの妙ちくりんな顔は見逃しようがありません。(←反対側の偽者のシェパード、つまりスコット・グレンの後ろで、でぼちんの長さが異様に似ている偽者のカーペンター、つまりチャールズ・フランクがへらへら笑ってるのが映ってるのに…)

 

 

その 323 (2004/ 2/27)

 

そのジェームズ・ウェッブは(写真どころか)実は「ライトスタッフ」に登場してまして、ケネディがアラン・シェパードに渡そうとして落っことした勲章を、慌てて拾い上げる(ギャングの手下か悪徳刑事みたいな)おっさん脇役っぽいのが、それ。

 

実物に比べると、ジョン・P・ライアンのイメージは(ウェッブにしては)ちょっとスマートですかね (このシーンには、本物のシェパードとカーペンター、ちらっとグリソムの顔も見える)

 

かくの如く―

 

ライトスタッフ」は笑えるパロディです

 

というわけでありますよ。

 

 

この叙勲シーン、あえてフィリップ・カウフマンはスコット・グレン(シェパード)の後ろにチャールズ・フランク(カーペンター)を置き、記録フィルムのケネディの後ろにいる本物のカーペンターと(あざとくも)真向かいに立っているかのように撮って(編集して)いる―

 

これが笑えるパロディでなくして何であろう?

 

ライトスタッフ」においてカウフマンは常に(舌をぺろりと出し)ウソだぴょ~んとフザケているのであり、その基本姿勢が正しいことは、こちらのトピ―

 

ライトスタッフは名作です 》

 

の存在が 100% 証明している。 (と、わたしは思う)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3136】

 

その1261

 

原作には―

 

The other fellows had gone along for Al's trip to the White House, but the wives had remained at the Cape. When they flew back down to Patrick, the wives were out at the field to meet their plane. And they all had a single question : "What's Jackie like?"(The Right Stuff)

 

とあり(文脈から the wives は Al を除く The other fellows の奥方を指す)、映画では細君連中も皆 ローズガーデンの式典に参列して(にも拘らず)その場で ベティがルイーズに "What's Jackie like?" と訊ねる。

 

その612 (2005/ 3/18)

 

アラン・シェパードのホワイトハウスでの叙勲シーン、原作は―

 

宇宙飛行士は全員アルにくっついてホワイト・ハウスに行ったが、細君連中はケープにのこっていた。宇宙飛行士たちがパトリックにもどったとき、彼女たちは飛行場で飛行機の到着を待っていた。彼女たちみんなが訊きたがっていた質問はただ一つ、「ジャッキーってどんな人?」だった。 [中公文庫]

 

 これも筆がすべってると言うか、ミスリードさせやすい文章で、そのまま素直に読むならホワイトハウスに行ったのはマーキュリー7 だけで、その奥方は誰も行かなかったかのようじゃないですか。 (←トム・ウルフがそう思ってたとは常識的に考えにくいので、訳し方が舌足らずなのか)

 

言うまでもなく、シェパードの叙勲には当然 シェパード夫人のルイーズが同席している。 (つまり、ケープに居残っていたのはルイーズ以外の奥方)

 

ですから、映画で Louise, what was Jackie like? とベティ(ら他の奥方連)が訊くのは原作通りで正しいけども、そこがホワイトハウスだというのは正しくない―と言うか、ホワイトハウスに来てるんだったら、そんなことを訊くはずがないですわな。 (←ルイーズだけがジャッキーに会ったふうに取りつくろってはいるが)

 

※  厳密には And they all had a single question : "What's Jackie like?" なのでホワイトハウスに行かなかった奥方連はルイーズに訊きたがったなどと書いてはいない。

 

 

※  スクリプトは―

 

THE WHITE HOUSE. PRESIDENT KENNEDY is giving Shepard his award. All the Astronauts and wives are in attendance --

 

CUT TO: OUTSIDE THE WHITE HOUSE. The wives are walking away.

 

BETTY GRISSOM

What was Jackie like ?

 

LOUISE SHEPARD

She was nice. We talked about all sorts of things.

 

BETTY GRISSOM

My Gus goes up next. I can’t wait to talk to Jackie after that.

 

と、そのとおり「ライトスタッフ」で描かれてるように―

 

All the Astronauts and wives are in attendance

 

と明記している。(フザケてるんですよ、基本的に)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3135】

 

「ザ・ライト・スタッフ」[中公文庫] 訳者あとがき(中野圭二)に―

 

ニュー・ジャーナリストはかつての小説が持っていたリアリズムの手法を駆使して、徹底した取材をもとに―ニュー・ジャーナリストは全部ひとりでやる―細部を活写し、会話を復元し、場面を積み重ねて全体像を作り上げるのである。

 

そうは言っても、果してすべての事実が分るのだろうか、虚構で埋める部分はないのだろうか、という疑問は残るが、ウルフはあくまでも正確さが生命であり、読者がそれを信じられるところにノンフィクションの迫力があると述べている。

 

 

と、トム・ウルフの確乎たる基本スタンスを説明し―

 

「当然、登場人物の考えも著者によって語られるが、それは著者の推測ではなくて、インタヴューによって聞き出したものだということになる」

 

としている。

 

まぁ、概ねは(ほぼほぼ)そうに違いないだろうけれど、それでもトム・ウルフのペンは滑ることが間々ある―と、わたしは思う。

 

 

その 956

 

トム・ウルフが少なくともアラン・シェパードには直接取材していないのは(シェパード本人がそう主張してるので)間違いなく(口なしのグリソムには言わずもがな)、例えば誰しも印象に残る do it in the suit のシーンでシェパード(スコット・グレン)は "Whe-ayl, I'm a wetback, now." と言う。

 

これは原作に「さあーて… こいでおらあ本物のウェットバック [訳注 不法入国メキシコ人の意があり、濡れた背中に引っかけたもの] だあね」とシェパード(にこやかなアル)が急場においても泰然自若としてジョークをとばす一節があり(" 'Whe-ayl . . . I'm a wetback now.'  The man was beautiful!  Imperturbable at every juncture!")、この事態を「洪水」(the flood)とか「ダム決壊」(the dam break)に喩え「洪水の波は―(中略)―ついにはシェパードの背中中央の窪みにたまった―(中略)―彼は背中の窪みに冷えた尿の池を感じた」と、あたかもシェパードに直接その時の話(心境)を聞いたかのように読める。

 

けれど、シェパードによると実際は do it in the suit したものは 即 吸収されて乾いたそうなので(it soaked up immediately in the undergarment and with 100% oxygen flowing through that spacecraft, I was totally dry by the time we launched.)大げさにも >洪水の波(the wave) が背中の窪みにたまって >池を感じた(feel a cool lake of urine)りするってのは… (シェパードがもとネタだったとしても、本人から直に >インタヴューによって聞き出したもの ではないのは確か)

 

 

その1213

 

ライトスタッフ」(及び原作)には描かれてないけれど、たまりかねたアラン・シェパードが do it in the suit する際、それでショートして(he would short-circuit everything)“純粋酸素”に引火する危険性がある(セリフでは "might cause a short circuit. It could start a fire.")と渋るフォン・ブラウンらに(切羽詰った)シェパード自身が「ちょっとだけ電源を切ってりゃいいんじゃね」と指摘したとか。(たぶん "Tell 'em to turn the power off" といった命令口調で)

 

そしてシェパード(のスーツ内)は即座に乾く。(Shepard's underwear dried out fairly quickly in the pure oxygen atmosphere of his suit, though the stink remained.― [13.0] Lift-Off)

 

乾いたのを見計らって電源を戻したところ、思惑通りショートなどせず事なきを得た(turned the power back on and there were no problems.)―という顛末だったらしい。 (←すぐに乾いたというのが重要で、さもなけりゃ "I'm cooler than you are. Why don't you fix your little problem and light this candle?" の発言には至らず、結局シェパードのフリーダム7の成功はなかったかもしれない―まことにカッコ悪くも不名誉な理由で)

 

 

※ トム・ウルフ自身、シェパードにはインタビューを断られたことを(素直に)認めている―

 

Tom Wolfe: The Rolling Stone Interview (October 24th, 1979)

 

A few wouldn’t be interviewed. Alan Shepard told me that he only cooperated in documentary ventures that had a scientific purpose …

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3134】

 

その 736~8 (2005/ 9/13~14)

 

原作は、最初のパイロットはシェパード 予備のパイロットはグレンとグリソム(the prime pilot would be Alan Shepard. The backup pilots would be John Glenn and Gus Grissom.)と明言してるけれども、わたしにはグレンとグリソムの二人が厳密な意味でシェパードのバックアップだったとは思えない。

 

たとえ当初は(意図して曖昧に?)そう発表したにしろ(←世間には後日 3 人の名前が報らされただけで、誰が 1 番目かは直前まで極秘にされていた)、実際にはグレンがシェパードのバックアップを務めたのは確かであって、仮にグリソムもバックアップという位置付けだったとしても、単なるタテマエ(名ばかりのもの)だったはず―それは「ライトスタッフ」を見ても分かることなんですよ。

 

 

ライトスタッフ」はシェパードのバックアップはグレンであり、かつ グリソムはバックアップではないことを(ちゃんと見れば分かるように)示してくれている―

 

シェパードが乗ったカプセル(フリーダム7)のハッチにグレンが(ラーメンの出前みたいな格好して)ぬうっと現れるでしょ―例のハンドボール禁止のシーンですね。 [ When Shepard finally squeezed himself into the capsule and looked at the instrument panel, there was a little sign on it saying NO HANDBALL PLAYING IN THIS AREA. That was Glenn's little joke, and he grinned and reached in and took the sign out. Actually, it was funny enough…(The Right Stuff)]

 

プライム・パイロットがカプセルに乗り込むのをサポートするのがバックアップ・パイロットの役目のひとつで、グレンが(あの格好で)あそこにいるのは、即ちバックアップである証左に他ならない。 (←本物の証拠写真があって、シェパードを手助けするグレンはクツ下だけで靴を履いてないのが印象的)

 

原作でも 「彼(シェパード)が発射整備塔(ガントリー)のエレベーターで上り、カプセルに入るために外にでたとき、そこに、専門技師のように白衣を着こんだグレンがひかえていた」(When he came up the gantry elevator and stepped out, to enter the capsule, Glenn was already up there, dressed in white like the technicians.)と説明される。

 

 

で、実は グリソムも その場にいるんです、本当は―出前姿のグレンとは違い、スーツ姿のグリソムが。 (←シェパードに一緒に来いよとばかりに腕をつかまれてる証拠写真あり)

 

その本物のグリソムは、シェパードに付いてバンから降りエレベーターに乗るところ(記録フィルム)が「ライトスタッフ」で使われていた―どう見ても バックアップじゃなく、ただ付き添って同行してるだけでしょう、あのグリソムは。

 

原作によれば 「運搬車(ヴァン)に乗って向う途中、彼は、ホセ・ヒメネスのさわりを引き出す役を、ガス・グリソムにやらせた」(On the way out in the van he had gotten Gus Grissom to play straight man for the Jose Jimenez routine.)らしい。

 

参考

 

シェパードはリカバリーされて 2 時間半後に空母(シャンプレーン)からグランド・バハマ島に飛んでるが、そこにスーツ姿のグリソムが先回りして出迎えており、さながらマネージャー的な役どころ。(その後 スレイトンを交え、シェパードの記者会見に立ち合う)

 

 

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3133】

 

関連レス―

 

その 600 (2005/ 3/ 8)

 

NASAギルルース)が MA-6 と MA-7 のクルー(グレンとカーペンター)を発表した 1961年11月29日というのは、MA-5 のイーノスが見事地球を 2 周した日で、そのフライト後の記者会見(←むろん主役はアストロ・チンプ)の席で、ついでに(じゃなかろうけど)次のアメリカ人としては最初の軌道飛行のスケジュールが報らされたわけです。

 

ところで、わたしの 《 NASA は最初からジョン・グレンを実質 1番目である「3 番目」に決めていた 》説を、何だか原作は先刻お見通し―

 

のちに、NASA は最初から「グレンをこの日のために温存していた」のだとする説を唱えるものもいた(Later there were those who speculated that NASA had been "saving Glenn for the big one" all along. But Glenn did not have that kind of status within NASA.)

 

けども、あくまでチトフの飛行(Titov's flight あるいは the invisible Chief Designer 即ちセルゲイ・コロリョフ)がそうさせたとして―

 

彼が地球一周の軌道に乗る最初のアメリカ人に任命されたのは、ひとえに目に見えぬソ連の計画設計主任のおかげだった (No, he had only the invisible Chief Designer, Builder of the Integral, to thank for the fact that he was assigned to be the first American to orbit the earth.)

 

と、トム・ウルフは嫌にあっさりと型どおりの結論を下しておりますが、これについては既に何やかや(ごちゃごちゃ)述べてるゆえ、今は(更には)何も追究いたしますまい―また、くどくなるし。

 

参考

 

MA-6(有人軌道飛行)の dress rehearsal となる MA-5(有猿軌道飛行)のミッションには当然マーキュリー7も総動員されてまして、シェパード、シラー、スレイトン、クーパーがあちこちのトラッキング・ステーション、ケープにはカーペンターがブロックハウス、グリソムが管制センターに capcom として配置され、残るグレンが(次に飛ぶ予定だから)マーキュリー方式通りイーノスのバックアップ―じゃなくて、グリソムのバックアップだった。(←にしても、チンプ相手の capcom の更にバックアップって…)

 

※ このデータは間違ってる可能性もあり、クリス・クラフトによればスレイトンが管制センターの capcom で、MA-6 のクルー二人(グレンとカーペンター)が控えだったとか―このほうが順当で正しい気もする。