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ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3135】

 

「ザ・ライト・スタッフ」[中公文庫] 訳者あとがき(中野圭二)に―

 

ニュー・ジャーナリストはかつての小説が持っていたリアリズムの手法を駆使して、徹底した取材をもとに―ニュー・ジャーナリストは全部ひとりでやる―細部を活写し、会話を復元し、場面を積み重ねて全体像を作り上げるのである。

 

そうは言っても、果してすべての事実が分るのだろうか、虚構で埋める部分はないのだろうか、という疑問は残るが、ウルフはあくまでも正確さが生命であり、読者がそれを信じられるところにノンフィクションの迫力があると述べている。

 

 

と、トム・ウルフの確乎たる基本スタンスを説明し―

 

「当然、登場人物の考えも著者によって語られるが、それは著者の推測ではなくて、インタヴューによって聞き出したものだということになる」

 

としている。

 

まぁ、概ねは(ほぼほぼ)そうに違いないだろうけれど、それでもトム・ウルフのペンは滑ることが間々ある―と、わたしは思う。

 

 

その 956

 

トム・ウルフが少なくともアラン・シェパードには直接取材していないのは(シェパード本人がそう主張してるので)間違いなく(口なしのグリソムには言わずもがな)、例えば誰しも印象に残る do it in the suit のシーンでシェパード(スコット・グレン)は "Whe-ayl, I'm a wetback, now." と言う。

 

これは原作に「さあーて… こいでおらあ本物のウェットバック [訳注 不法入国メキシコ人の意があり、濡れた背中に引っかけたもの] だあね」とシェパード(にこやかなアル)が急場においても泰然自若としてジョークをとばす一節があり(" 'Whe-ayl . . . I'm a wetback now.'  The man was beautiful!  Imperturbable at every juncture!")、この事態を「洪水」(the flood)とか「ダム決壊」(the dam break)に喩え「洪水の波は―(中略)―ついにはシェパードの背中中央の窪みにたまった―(中略)―彼は背中の窪みに冷えた尿の池を感じた」と、あたかもシェパードに直接その時の話(心境)を聞いたかのように読める。

 

けれど、シェパードによると実際は do it in the suit したものは 即 吸収されて乾いたそうなので(it soaked up immediately in the undergarment and with 100% oxygen flowing through that spacecraft, I was totally dry by the time we launched.)大げさにも >洪水の波(the wave) が背中の窪みにたまって >池を感じた(feel a cool lake of urine)りするってのは… (シェパードがもとネタだったとしても、本人から直に >インタヴューによって聞き出したもの ではないのは確か)

 

 

その1213

 

ライトスタッフ」(及び原作)には描かれてないけれど、たまりかねたアラン・シェパードが do it in the suit する際、それでショートして(he would short-circuit everything)“純粋酸素”に引火する危険性がある(セリフでは "might cause a short circuit. It could start a fire.")と渋るフォン・ブラウンらに(切羽詰った)シェパード自身が「ちょっとだけ電源を切ってりゃいいんじゃね」と指摘したとか。(たぶん "Tell 'em to turn the power off" といった命令口調で)

 

そしてシェパード(のスーツ内)は即座に乾く。(Shepard's underwear dried out fairly quickly in the pure oxygen atmosphere of his suit, though the stink remained.― [13.0] Lift-Off)

 

乾いたのを見計らって電源を戻したところ、思惑通りショートなどせず事なきを得た(turned the power back on and there were no problems.)―という顛末だったらしい。 (←すぐに乾いたというのが重要で、さもなけりゃ "I'm cooler than you are. Why don't you fix your little problem and light this candle?" の発言には至らず、結局シェパードのフリーダム7の成功はなかったかもしれない―まことにカッコ悪くも不名誉な理由で)

 

 

※ トム・ウルフ自身、シェパードにはインタビューを断られたことを(素直に)認めている―

 

Tom Wolfe: The Rolling Stone Interview (October 24th, 1979)

 

A few wouldn’t be interviewed. Alan Shepard told me that he only cooperated in documentary ventures that had a scientific purpose …