独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3020
 
関連レス―
 
その249252 (2003/12/24
 
ライトスタッフ」で、初めてカプセルを見せられた7人が口々に文句を言うシーン―
 
まず、ホットドッグが「で、窓はどこに付けるつもりだ?」(Uh, where are you putting the window?)と訊いて、次にガス・グリソムが「ハッチはどうなってる?」(No window…  What about the hatch?)と突っ込むでしょ。
 
あの時、ガスは↓こう言うんですよ―
 
Yeah, the hatch. We need a hatch with explosive bolts, that we can open ourselves.
 
これじゃ、さもガス・グリソムが、いきなり爆発ボルト式のハッチを要求して付けさせたみたいですが、こんなとこもカウフマンが単に皮肉めいた作りにしてるだけだと思いますね、わたしは。
 
いささか細かい話をすると、そもそものデザインでは、パイロットが脱出する際は、あの窮屈なカプセルの頭のほうから這い出るという手順だったそうです―大変な難産が想像されて笑っちゃうでしょ、悪いけど。
 
あのシーンのカプセルが No hatch であると言われてるのは、その意味なんでしょうか。
 
だとすると、正確に言うなら、あのカプセルは No hatch じゃなくて No side escape hatch ―つまり、胴体の側面に自分で開けられる脱出ハッチがないんですね。
 
もちろん、カプセルの頭のほうから這い出る方式は、とてもじゃないけど無理があってパイロットにはすこぶる不評でありましたし、いざという時にレスキューもままなりません。
 
そこで、アラン・シェパードのカプセルには side escape hatch が付けられることになります。
 
 
フリーダム7(とハムの MR-2)に付けられたのは、掛けがね(かんぬき)式と言うか、単純なラッチ latch 式のハッチでした。
 
ただ、このラッチ式のハッチは重過ぎるんだそうです―弾道飛行では OK なんですが、軌道飛行に組み込むには負担になるんですね。
 
それがために、次のリバティベルには 13 の重さしかない爆発ボルト式のハッチが付けられたんですよ。(ホットドッグが要求してた窓もリバティベルから付けられてますから、何気に軌道飛行モードのカプセルに改良されてるわけです―3番目のジョン・グレンのために?)
 
ですから、皮肉にもガス・グリソムが爆発ボルト式のハッチを要求して付けさせたのが事実だったとしても(←早い段階で皆がその要求をしてたらしいし)、あのシーンのオリジナル・デザインであろうカプセルに爆発ボルト式のサイドハッチを付ける確約をさせる描き方は、明らかに厭味なバイアスがかかってるんです―てゆうか、意識的にそういう作りにしてるんですね、カウフマンは。(←はっきり言って、イやな奴でしょ)
 
 
リバティベル以降のサイドハッチは、パイロットが乗り込んだ後、外から 70本の爆発ボルトでねじ留められまして、脱出時にスイッチを入れると全ボルト(←穴を開けてわざと弱くしてある)に仕掛けられた mild detonating fuse が同時に爆発して、一瞬の内にハッチ(カバー)を 25フィートばかり吹っ飛ばす仕組み。(ですから、余裕こいてる時には、外から気長に 70本のボルトをはずしてもらってハッチを開けて再利用?してもいいわけですが、ウォリー・シラーは余裕綽々のフライトだったにも拘らず、リカバリーされた空母の上で、わざとシグマ7のハッチを吹っ飛ばして試してみたんですね、どんな具合かを。←ちなみに、ホットドッグも全く同じことをやらかしてます)
 
で、ちょっと気になる話が伝えられておりまして―
 
リバティベルの打ち上げ直前に、その 70本のボルトの内の 1 本だけ不具合 misaligned なのが見つかったんですよ。
 
でも、調べたら残りの 69本で問題はないってことで、その 1 本ははずしたまま飛んだらしいんですけど、考えてみりゃ随分いい加減なシステムじゃないですか―それでよくも malfunction は絶対にないなんて言えたもんです。
 
もっともグリソム自身も認めるように、それがハッチが勝手に吹っ飛んだ原因ではないのは確かなようです。
 
と言うのも、ボルトの不具合は爆発を不完全にこそすれ、ひとりでに爆発を起こさせるように作用するとは考えにくいからですね。
 
問題の the misaligned bolt は、その後ガス・グリソムがずっと持ってたそうであります―記念に。(空軍パイロット!)
 
参考
 
引揚げられたリバティベルのハッチ部分を調べたところでは、爆発の焼け跡が付いてなかったとか―ということは、そもそも爆発そのものは起きてなくて(←実際、スイッチは押されてないんですから)、なぜかハッチ(カバー)が脱落してしまったという何ともオソマツな malfunction の可能性もあるっちゃあると言えるわけですよ。
 
ただし、焼け跡を付けずに爆発した実例もあるらしいので、まあ何とも言えませんでしょうけど、それだけでは。
 
70本のボルトの内の 1 本だけを除いたところで、それでどうにかなるとも思えませんが…ちょっと気にはなる話です。
 
 
かようにカウフマンは「ライトスタッフ」において、ガス・グリソムがハッチを吹っ飛ばしてリバティベルを沈めたのは、まるで自業自得の screw the pooch だと言わんばかりの話に仕立て上げてるわけですが、巷では更にアポロ1の火災事故までも、このリバティベルのハッチと皮肉に関連付ける論調があって―
 
ガス・グリソムは、自らカプセルに脱出ハッチを付けさせた
     ↓
そのハッチが原因で、カプセルを沈めてしまった
     ↓
ガス・グリソムが(自分のミスを棚に上げて)ハッチの malfunction を主張したため、アポロでは別の様式のハッチに変えられていた
     ↓
その結果、アポロ1の司令船が火災を起こした際、ガス・グリソム(とホワイト、チャフィーの 3 名)は素早く脱出できずに死亡した―
 
と、まあ簡単に言うと、こういう皮肉な流れの因縁話的な論調です。
 
…ったく、ふざけるんじゃ~ない!
 
 
ガス・グリソムは、マーキュリーのなかで、手を傷つけずにハッチを吹っ飛ばした唯一のパイロットなんですよ。 (つまりは、自ら吹っ飛ばしてない― screw the pooch したんじゃないってことですが)
 
ジョン・グレンもウォーリー・シラーもゴードン・クーパーも皆 手を傷つけたんです。
 
ケガをしないと使えないような代物は、一般に何と呼ばれるか?
 
そう、欠陥品です―そんな欠陥装置を、そのままにしておくほうが常識からしてオカシイ。
 
最後のホットドッグまで(たぶん、その次のフリーダム7Ⅱまでも)そのままだったということこそ異常なんです―これもまた実に不思議な話じゃないですか?
 
スイッチ部分(プランジャ)の、必ずケガをするという明らかな欠陥のみならず、爆発ボルト式のハッチには根本的な不具合があった可能性があるんですから。
 
ガス・グリソムの malfunction という主張を信じようと信じまいと、その可能性を考慮するのが当り前でしょう。(わたし個人は言葉の本来の意味では malfunction だとは思ってないけど)
 
ガス・グリソムの主張がどうであろうと、返品・交換されるべき欠陥装置だったってことですよ、あのハッチは。