【誰にともなしに、独り言レス―その3089】
原作「「ザ・ライト・スタッフ」はリバティベルのグリソムがパニックだった(a bumbling, panicked Grissom)として―
遠隔計測器のデータによれば、グリソムの脈搏数は「頻搏」に近い状態に何度も達した。再突入直前には、一分につき百七十二[訳文ママ]にも及んだ。航空母艦レイク・シャンプレインに無事収容されてからも、脈搏数は百六十、しかも息づかいは荒く、肌はほてり、汗ばんでいたし、何もしゃべりたがらず、ただねむりたがった。臨床的には彼こそパニック状態におちいった男を絵にかいたようなものだ。[中公文庫]The telemetry showed that Grissom's heart was on the edge of tachycardia at times. Just before re-entry his heart ratehad reached 171 beats per minute. Even after Grissom was safe and sound on the carrier Lake Champlain, his heart rate was 160 beats a minute, his breathing was rapid, his skin was warm and moist; he didn't want to talk about it, he wanted to go to sleep. Here was the clinical picture of a man who had abandoned himself to panic.
と、グリソムの異常な生理状態を明白な証拠と決めつけていて、そのせいで―
やつがなんらかの形でボタンを押したことは間違いない。[中公文庫](Oh, there was no question that he had hit the damn button some way.)
と(それ以外ありえないとばかりに)描く。
だが、そこには(おそろしく単純な)論理の飛躍があることに注意すべきだろう。
たとえグリソムが本当にパニック状態だったとしても、焦ってハッチを吹っ飛ばす根拠には全然ならない。
むしろハッチを吹っ飛ばした根拠として a bumbling, panicked Grissom をイメージ付けてるだけで、全くの憶測(「たぶん、やつはただただ外に出たかったんだろうな。そして―えい、ままよ!―ボタンを押しちまったのさ。」 Maybe the poor bastard just wanted out, and—bango!—he punched the button.)にすぎないのは明らか。
論点はグリソムがハッチを吹っ飛ばしたかどうかであって、グリソムがパニックだったかどうかでは決してない。
この(悪意のある)すり替えはグリソムを不当に貶めている。