【誰にともなしに、独り言レス―その3224】
そのスレイトンを狂言回し的なセンター(軸)に配置した「人類、月に立つ」は確かに「続・ライトスタッフ」(或いは「ライトスタッフの逆襲」)と呼びうる趣―
その 278 (2004/ 1/19)
「ライトスタッフ」にも描かれてますけど、アニー・グレンがアホのジョンソンとの TV 出演をきっぱり拒否してくれたおかげで、そのとんだトバッチリを(廻りまわって)ディーク・スレイトンが受けてしまったという(何だか脈絡のはっきりしない)説があるらしい。
スレイトンの心臓疾患と言うのも大げさな原因不明の不整脈(心房細動)は、何もフライトが決まってから急に発覚したものじゃなくて、実は早い時期(遅くとも 1959年 8月)から判ってたんですが、その時の徹底的な検査では結局フライトには何の支障もなかろうと不問に付されてたものだった。
それが、あのクリーン・マリーン夫妻の件がもとで、どうも(何の関係があるのか、ジョン・グレンは心臓が悪いというデマが流れ)その何やら政治的裏のありそうな煽りを受けて(マーキュリーの主治医がポロっと口を滑らせてしまい)スレイトンの心臓にお鉢が回って、今更のように no problem だったはずの原因不明の不整脈の問題を蒸し返さざるをえなくなった―
結果、哀れスレイトンは地上任務にシフトされるわけだけど、飛ぶ予定だったカプセルのコールサインはとうに決めておりまして、その名も―
デルタ Delta 7
どういう理由で Delta なのかはディークの頭文字 D とか、4 番目のフライトとか、カプセルの形を意味するとか、その辺りか―
参考
デルタは Delta-V(delta-vee = velocity change)に由来するという、もっともらしくも意味不明な説があります―ホンマかいな? (あてずっぽのディークの頭文字 D とかが案外ほんとのとこのような気が…)
その 281~284 (2004/ 1/22~25)
カーペンターとシラーの運命に少なからぬ影響を与えたスレイトンの不整脈は、言うまでもなく当のスレイトンの運命を大きく左右する。
「アポロ 13」(スレイトン役のクリス・エリスは本人に感じがよく似てて、「ライトスタッフ」のスコット・ポーリンでは線が細い)で描かれてたように、スレイトンは Chief Astronaut というポジション、ジェミニ~アポロまでの宇宙飛行士の管理責任者として彼らを後方(即ち、地上)でコーディネイトしてたわけですが、その一方で必ずや最前線のフライト任務に復帰せんと、日々の訓練は欠かさなかったらしい―しかも、きっちり節制をして。
まず、明らかに心臓に悪影響のあるタバコを止めてます。(マーキュリーではホットドッグだけがノン・スモーカー、他の連中は表向きでは禁煙、こっそりフライト前に一服してたとか)
それから、不整脈と関連があると思ったか、コーヒーも止める。
そして問題のアルコールに関しては(少量のアルコールはプラスに作用することもあるので?)止めてはないものの、摂取量を劇的に減らす。
その代わりに、ビタミン剤の大量服用、及び一時は(抗不整脈薬の)キニジン quinidine を摂取。
そのかいあってか(本人によるとビタミンが効いて)、ついに(1970年)原因不明の不整脈は治まり、ようやく10 年ぶり(1972年)に念願のフライト任務への復帰が晴れて認められたのだった。
それをスレイトンは(いかにもスレイトン流のやり方で)自分だけで静かに祝う―
この空軍の(マーキュリー随一の腕前と目されていた)テストパイロットは、軽く一時間ばかり、独り T-38 の曲芸飛行に興じたそうである。
「ライトスタッフ」でホットドッグとトゥルーディがパンチョの店に行くと、スレイトン夫妻が入口近くのテーブルで言い争ってます。
36 週に 62 人(that's 62 men in the last 36 weeks.)という凄まじい死亡率(averages)のことを、マージが心配して突っ込んでますでしょ、ディークに。
スレイトンは、あのシーンで殆んど聞き取れない声で(すぐ側のピアノがうるさいし)こう応える―
Averages only apply to average pilots.
[ 原作もとネタ文―The figures were averages, and averages applied to those with average stuff. その数字は平均値であり、平均値は平均的資質の持主に当てはまることなのだ。]
その死亡率(平均)は並の(平均的)パイロットにしか当てはまらない―いかにもって感じの、気の利いた言い方じゃないですか。
字幕で「死ぬのは腕が悪いからさ」と説明してくれてるように、こう言ってスレイトンは自分が(そんじょそこらの)並みのパイロットではないことを主張してるんですね。
その後のホットドッグとガス・グリソムのやりとりと含めて、この空軍アスホール・トリオは揃いも揃って hot dog だと感じさせるセリフなんだから、もうちょっと際立たせてもらいたかったシーンであります。
(スレイトン夫妻が「墜落するのはマシンのせいじゃなくてパイロットが下手なんだ」The machine broke. It didn't, it's the man. He was dead before he went up. とか何とか言い争いながら、最後はマージが憤然とトゥルーディと見つめ合うみたいにして店を出て行くのを横目に、ホットドッグとガスが苦笑して終わる―まあ、その辺りの描き方も「ライトスタッフ」のテーマの一つではあるんだろうけど、どうしてもスレイトン個人の印象が弱くなりますよね、そっちのほうに流れると)
デルタ 7 のキャンセルから 13 年を経て、ついにスレイトンは 9 日間の宇宙の旅に飛び立つ。
1975年の(本来のアポロ計画ではない、そのオマケみたいな)アポロ最後のミッション―アポロ18 の改変 ASTP(Apollo-Soyuz Test Project アポロとソユーズのドッキングテスト・プロジェクト)がそれ。
アポロ13 のトラブルを受けて、正規のアポロ18 (月ミッション)はキャンセル、この瓢箪から駒と言うべき ASTP のランデブーが、おそらくスレイトンにとっては、ぎりぎりの最後のチャンス―何たって最高齢ルーキー(51歳)だったので。(以降はスペースシャトルの開発プロジェクトに専念する)
思えば、最初のアポロ1 でガス・グリソムが死亡して、最後のアポロ18 に辛うじてスレイトンが間に合ったというのも因縁めいてはいるような…(ちなみに、もしアポロ1の事故がなければ、最初に月に降り立ったのはグリソムだったろうとスレイトンは言っていた)
結局、スレイトンは脳腫瘍(癌)で亡くなる(69 歳)―晩年まで心臓はもう何ともなかったんでしょう。
で、ふと気になった話があって、ジョン・グレンの証言によると、マーキュリーの頃のスレイトンは、そりゃもう酷いイビキをかいてたらしい―壁に掛けた額縁がガタガタ鳴るほどの。
ひょっとしたら、あの原因不明の不整脈はイビキ(睡眠障害)のせい?