【誰にともなしに、独り言レス―その3150】
その 450~454 (2004/ 8/24~28)
チンパンジー問題に関する(少なくとも当初の)フォン・ブラウンの(ブラウンじゃなくブラックな?)肚の内は、ライフ誌の取材シーン(←人間とチンプの訓練ぶりをオーバーラップさせて笑わせる)でもはっきりと示されてます。
宇宙船のシステムは完全自動であるから、乗員はチンパンジーでも人間でも同じことで、問題は―
どっちが先か(Which one will be first-the man or the monkey?)ということだけだと。
早い話が、いわゆる宇宙飛行士(the so-called astronaut)はツイデと言うかオマケと言うか(マーキュリー計画のテーマ上)仕方なく乗せてやってるだけの冗長装置(a redundant component)―もともと有人飛行はフォン・ブラウンの意図するところではなかったようでもある。
ウォーリー・シラーに言わせれば、シェパードからカーペンターまでのフライトは完全自動のチンプ・モードにすぎず、自らのシグマ7こそ(初めて宇宙飛行士によって操縦された)本当の意味でのフライトだったと何気に自慢してるんで、まあ取りあえずは、その辺りから「サルでもできる」ミッションではなくなった―と、一応そういうことにしときましょうか。 (じゃないと、ライトスタッフとしての格好が…)
I had in mind a jimp.
フォン・ブラウンが(ドイツ語訛りで)ジョンソンにそう説明するシーンがあります― A jimp. A jimpanzee. An ape. と。
ここから判るように、フォン・ブラウンは最初からサル方式を目論んでたようですが、The first American into space がチンパンジーじゃマズイだろってことで人間が(それこそ)人選されるという話の流れになってますね。
それでも、結局 アイゼンハワーの鶴の一声(I want test pilots!)でテストパイロットに決まる時も、もっと管理しやすい(manageable)従順なタイプ(の人間)にすべきだと反対する。
前レスのシーンでも、チンパンジーが人間と同じタスクをこなすことができ、しかも(より重要なことに)はるかに協力的 cooperative で従順である点を強調してました。
かてて加えてと言うか、それ以前にフォン・ブラウンにとっては有人(←よりによってテストパイロット)飛行に拘らずに済むのなら、例えば安全性を(少なくとも最優先には)考慮する必要がないということ、それだけでも格段に開発を進めやすいってことなんでしょうか―
現にアメリカが(もたもたと)チンパンジーを打ち上げてる隙に、さっさとソ連のガガーリンに先を越されてしまったのは、逆にソ連がその安全性を最優先に考慮していなかった何よりの証―とも言えるかもしれない。
Astro-chimp のハム(MR-2)は、ロケットの不具合で(早く点火して加速されすぎたせいで)15~17 G でぺしゃんこにされかかるワ、スプラッシュダウンしたカプセルは転覆浸水するワで、ほうほうの体のご帰還だったそうですが、その勇敢にして決死の任務遂行に対し―
NASA Distinguished Service Medal
ではなしに an apple が(カプセル内につながれたままの状態で)授与されました。 (正確には and half an orange だったとも―せめてバナナの一本も余分につけてやれよなぁ…)
「ライトスタッフ」では、いかにもリカバリーされた直後って感じのカプセル内のハムを、例によってゾウムシ連中(マスコミ)がパシャパシャやってましたでしょ―当然あれは(お得意の)作り話で、実際のプレス向けの写真は数日後に改めてセッティングされて撮られたもよう。
その際、再びカプセルに詰め込まれるのをハムは酷く嫌がったらしく、さながら文字どおりの Ham in a can (Spam in a can)の図であったと想像される。
参考
ちなみに Ham という名前は Holloman's Aero-Medical Lab (←で訓練された)の頭文字からつけられてるので、食肉加工品のハムとは何ら関係ありません。
フォン・ブラウンが言うとおり、ハムは人なつっこい愛嬌のある従順なチンパン君でしたが、ジョン・グレンの前に軌道飛行したイーノス Enos は(賢くて優秀だったものの)けっこうホネのある(テストパイロットみたいな?)やつで、全然人に馴れなかったそう。
抱こうとするとすぐ噛みついたりするんで、いつも囚人みたいに両手をつながれてたらしい―無理やり従順にさせられてたわけです。
でも、ミッション(MA-5)ではその持ち前のガッツ(と 1250時間にも及ぶ訓練の成果)を遺憾なく発揮して、正しい操作をしてるのに(まるでミスでもした結果のペナルティ的な苦痛を伴う)電気ショックを受け続けるというアクシデントにも任務を放棄することなく、果敢に地球を 2 周して無事戻ってきております。 (リカバリーされるや、嬉々としてデッキを跳ね回り、珍しく皆と握手したりして、偉くご満悦だったとか ←根はいい奴なんですよ)
イーノスは宇宙から生還した半年後、そのスペース・ミッションのせいなんかではなく、赤痢にかかって死亡しました。 (取り立ててニュースにもならなかったと聞く…)
参考
Enos はヘブライ語(或いはギリシャ語)で mortal 、即ち死すべき宿命にある人間を意味する―なるほど、シャレてると言うべきか…
「スペースカウボーイ」に登場するチンパンジーの名前は Mary Ann だという話をしましたが、実際のレディースの Astro-chimp はミニー Minnie といって、ハム(MR-2)のバックアップ・パイロットを務めてます。 (←残念ながら、ジェリー・コッブ同様、結局は飛ばずじまいだったけど)
ミニーはマーキュリー・プログラムをお役ご免になった後、空軍の breeding program に転属され(お国のために?)せっせと子づくりに励む。
プライム・パイロットのハムはと言うと、17年間も動物園で無為にタイヤにぶら下がってるだけの孤独にして侘しい生活を送らされてましたが、その後(晩年の 2年間)は他の仲間と一緒になれて彼女もでき、やっと(人並みの?)幸せをつかんだようです―1983年、おそらく「ライトスタッフ」の封切りを待たずして、ハムは安らかに永眠。(享年 27)
(その 15年後、ミニーは 41才という長寿を全うし、ハムの隣に埋葬された)