独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3043
 
その6364
 
さすが「海兵のかたぶつ」エド・ハリスは、役づくりのためにジョン・グレン NASA の資料ビデオを撮影前にお勉強したそうですが、ハリー・シェアラーとジェフ・ゴールドブルムの凸凹コンビ(この順だと凹凸か)a tall and short recruiter duoJeff Goldblum and Harry Shearer)は、もともとフィリップ・カウフマンが創作した狂言回し的なコミック・リリーフですので、当然 事前のリサーチなんかしようがなくて、ふたりのあの演技はそれこそ殆んど即興的なものだったらしい。
 
言われてみれば、そのことを強く感じさせられるのが、ふたりがパンチョの店に来るシーンで、そこでやりとりされるセリフ(There any snakes around here?  Yeah. In the bushes.)とか、クルマから降りて上着を取り違えてしまうギャグとか、いかにもアドリブの匂いがプンプンする。
 
で、そこで思い出したことがあるんですが、映画のなかで唯一あのシーンの凸凹コンビ(厳密に言うと 凹のハリー・シェアラー)だけが「ライトスタッフThe Right Stuff という言葉を口にします(They think they got the right stuff.)。
 
それに対し 凸のジェフ・ゴールドブルムが―
 
You mean, heroism, bravery?  (それは英雄的資質とか勇敢さのことか?)
 
と訊くと、凹のほうが―
 
There's more to it than bravery. (勇敢さよりもっとそれ以上の意味だ)
 
と説明する、あのシーンの一回だけ、後にも先にも、その一回きりです。
 
ところが、ある著名な映画評論家が(知ったかぶって)書いてるのを読んで、ほとほと呆れ返ったことには、映画のなかで一度だけライトスタッフと言うところがあって、それはゴードン・クーパーが「最高のパイロットは誰か?」と訊かれた時に口にすると、あのテキサススタイルのバーベキューパーティのシーンを挙げてるんですよ―
 
アホか。
 
あの時 ホットドッグはライトスタッフとは言ってません―金輪際、言っておりません。
 
「ライト―」(the right…) と言いかけて、中断させられるんです。
 
もし字幕にライトスタッフと出てるとしたら、それはそうしないと解らないから敢えてライトスタッフとしてるだけで、実際はホットドッグがそう言おうとして邪魔されて言えなかったというとこがミソ―そこが肝心要の微妙にして絶対見逃せないとこなんです、あそこは。
 
ですから、あれ以前に 凸凹コンビが(ちゃんと説明を加えて)ライトスタッフとはっきり言ってるシーンを万が一見逃したとしても、あのバーベキューパーティでホットドッグがライトスタッフと言ってるなどといい加減な評論をするアホは、それこそ「ライトスタッフ」の何たるかを全然理解してない、オソマツ極まる―(以下、自粛して抹消)
 
[ ※ カウフマンのスクリプト
 
GORDO
I said, “pictures on a wall”… back at someplace… that doesn’t exist anymore. Some of em… are right here in this room…putting his hand on Gus’ shoulder. Gus is almost moved to tears…and some of em, they’re still out there somewhere, doing what they always do, goin up each day in a hurtlin piece of machinery, putting their hides on the line, hangin it out over the edge, pushin the outside of the envelope, then haulin it back… But there was one pilot I seen who truly had the right…
 
He’s cut off right there by the Press as they crawl, hunker, elbow, shove and scrape their way toward him, bulbs popping, sound growing:
 
PRESS
Slow down… What did he say?... Could you speak up, please?... What’s an envelope?... etc.
 
And Gordo suddenly comes to his senses.What do they care, anyway? This is not something to be talked about here. The fighter-jock in Gordo rises up again and that cocky smile returns.
 
GORDO
Who’s the best pilot I ever saw? …Why, yer lookin at him!
 
And Gus laughs, and Trudy laughs, and the bulbs pop the screen WHITE.
 
CUT TO: EXT EDWARDS AFB(イェーガーの NF-104 シーンへ)]
 
 
ホットドッグがライトスタッフと言いかけるというのは―
 
But there was one pilot I once saw who I think truly did have the right…
 
このセリフの最後の部分のことですね。
 
これを NHK の字幕は「真のパイロットとしての資質を…」としてて、なるほど工夫の跡が見られはするんですが、いかんせん、これでは肝心のライトスタッフと言いかけてるということが解りません―それが解らなきゃ、このセリフは意味ないんです。
 
一方、レンタルの字幕では「彼こそ正しい資質を―」として上にルビで「ライト・スタッフ」とはっきり入れちゃってます。
 
そうでもしないと、字幕を見てる者には解らないというのも確かにそうかもしれないんですが、こうもあからさまにやっちゃうと、過ぎたるは及ばざるが如しで、ライトスタッフと言いかけて言えなかったという微妙な感じが抜け落ちてしまいますね―それだと、やはり意味ないんですよ、このセリフは。
 
じゃ、どういう字幕にすべきなのか?
 
そもそも、この映画のタイトルがまさしく ライトスタッフThe Right Stuff  だということを忘れてはいけません。
 
そして、その言葉の意味を説明するという形で敢えて 凸凹コンビにライトスタッフと言わせてるということを忘れてはいけません。
 
それを踏まえれば、ここは素直に、ただ単に「ライト―」でいいんじゃないかと、わたしは思います。
 
つまり、NHK に倣えば「真のパイロットとしてのライト―」(レンタルに倣えば「彼こそ、ライト―」)
 
そんな字幕で、いやそんな字幕のほうが、このセリフの真意がよっぽど伝わるんじゃないか―と思うのですが、いかがでしょう?
 
わたしら字幕ウォッチャーも、そうまんざらバカにしたもんじゃないですよ、と言いたい今日この頃でありました。