独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3317】

 

<アポロ7>

 

その2765~2774 (2018/ 6/ 6~7)

 

むろん(シュワイカートが >blamed it on Seconal and all kinds of stuff, which is pure B.S. と切り捨てるように、どう言い繕っても)ボーマンが宇宙酔いだったのは間違いないが、実は(シュワイカートすら on Apollo 7 no one reported any problem. But on Apollo 8, Frank had gotten sick, と言ってるけれど)その前のアポロ7 のウォーリー・シラーらクルーの「風邪」(と信じられていた症状)からして今では宇宙酔いの嫌疑が強くあるとか。(NASA の Millard Reschke は“Apollo 7, it was space sickness,” “No doubt about it. The excuses just don’t hold up.” とさえ)

 

シラーの「風邪」関連レス―

 

その341 ~345(2004/ 3/25~29)

 

さて、わたしはウォリー・シラーはアポロ7のフライト後、NASA勇退したという言い方をした―でも、その表現は微妙に的確ではないのかもしれない。

 

マーキュリー、ジェミニと飛んできたベテランのシラーは(事前に)このフライトを最後に引退すると表明してたそうだから、立派な勇退には違いないけども…

 

実は、一緒に飛んだドン・アイズリ(アイゼル)Donn Eisesle とウォルター・カニングハム(カニンガム)Walter Cunningham の二人も、アポロ7のフライト後(数年の内に)相次いで NASA を辞めてます。(ルーキーだったのに)

 

いったい、なぜか?

 

思えば、マーキュリーのフライト・ディレクターだったクリス・クラフトの一喝で、オーロラ7のパイロット(スコット・カーペンター)は二度と飛ぶことはなかった…

 

ま、あんな感じだと申しましょうか― NASA の管制センターは、アポロ7のクルーを二度と飛ばさない肚だったらしい。

 

だから、辞めたんですよ―彼らは。

 

 

アポロ7の打ち上げの数日前と言うから、たぶん 10 月の上旬、シラーはカモ狩りに出かけている―そんなことが許されてたのか、こっそりなのか、いずれにしても気分転換のつもりでしょう、ベテランの余裕(気の弛み?)ってやつですか。

 

これが、いけなかった… どうやらシラーは、そこで風邪のウィルスに侵されたらしい。

 

その時期のフロリダとは言え、カモ狩りですから、或いは夜明け前のスワンプの寒気が障ったのか―不用意と言う他ありません。

 

密かにシラーの体内に潜伏してたウィルスは、打ち上げ前のドクター・チェックをすり抜けて、ついにフライトの 15 時間後、地球軌道を周回する宇宙船の中で宿主に発病したんですね。

 

ゼロG における風邪ほど悲惨なものはない。(粘液が溜まって通常のようには流れないゆえ―鼻づまりが酷く、それを強くかんでは耳を痛めるし)

 

完全密閉された船内では瞬く間に大流行、二人のルーキーにも感染して翌日には発症してしまう。

 

 

シラーは鼻をかむのにクリネックスを 8、9 箱使ったと証言しており、実のところ、体調不良からくる苛々は極限まで達してたようであります。

 

そんな時に限って、度重なるフライトプランの変更だの、予定されてなかったテストや実験だのを次から次に要求されちゃ、さしものシラーも「いい加減にしてくれ」ってなりますわな―「聞かされてもない、いかれたテストなんぞ、誰が知るか!」ってなもんで。

 

それがために、アポロ7と地上の管制センターとの間に、少なからぬ軋轢が生じてしまったんですね。

 

そして、決定的なヘルメット事件が起こる…

 

参考

 

そもそもアポロ7は、アポロで最初の有人ミッションの予定だったアポロ 1(←これは後から付けられた名称)を、ガス・グリソムらのバックアップだったシラーたち 3 名がそのまま引き継いだ形だから、言うまでもなくアポロでは最初の(しかも事故後初めての)ミッションであり、そのプレッシャーもあって、クルーには訓練もしてない予定外の事柄を右から左に処理するだけの余裕はなかったというのが実情だったのでありましょう―カモ狩りなんぞにはホイホイ行く余裕はあっても。

 

 

アポロ7は月に到達するための基礎固めといったミッションで、ほぼ 11日(260時間)のフライトで地球軌道を 163 周しております。

 

一説によると、アポロ7の反乱は、地上から capcom の(アポロ13でお馴染みの)ジャック・スワイガートが「さて、お次の任務だが―」と、何やらごちゃごちゃ伝えてきたのに対し、ドン・アイズリが「そないムチャ言うてんのは、どこぞのアホや―ちょいと話しまひょか」と(つまり「責任者、出てこい」と)やんわり?上層部を批判したのがきっかけのよう。

 

で、鼻づまりで完全に切れてたシラー船長は、地上の管制センターに「これからは、わてが現場のフライト・ディレクター(an onboard flight director)になったる!」と宣言しちゃったんですね、きっぱりと。 (←「ライトスタッフ」におけるランス・ヘンリクセンとは思えないでしょ、全然)

 

そうやって一触即発の険悪なムードのなか、いよいよフライトの最終段階に及ぶや、実にやっかいな(傍目には何とも馬鹿げた?)問題が生じたのであります― ヘルメット事件…

 

再突入の際、当然かぶってなきゃいけないヘルメット、ではありますが―哀しいかな、鼻かめないじゃん、それじゃ…ってんで、地上からのディーク・スレイトンの説得にも聞く耳を持たず、シラー船長は断固ヘルメットをかぶらない決意をするのでした。

 

 

シラーは、これを最後に引退するつもりでしたから、地上の連中の思惑など一切かまわず、自分のやりたいようにやったということもあるでしょう。

 

ルーキーの二人は、むろんベテランの船長さんに従ったわけですが、まあ管制センターの意向に逆らってヘルメットをかぶらなかった―そして、たとえ(鼻をかめない[鼓膜を破る怖れがある]からという)合理的にして止むを得ない理由があるにしても、とにもかくにも何かにつけて管制センターに反抗的だったという事実の前に、その後二度と飛ぶ機会は与えられなかった…

 

 

それでも、そこはクールな冗談屋 Jolly Wally シラーのことですから、内容的には(初の生 TV 中継を含む)ミッションの首尾は上々で、何も文句のつけようはなかったようです。

 

例によって、スプラッシュダウンも正確で、予定着水ポイントの至近距離(2 キロ以内)。

 

ちなみに、アポロ7の上出来のフライトを祝して葉巻をふかすジーン・クランツ以下 3 人の(交代制だった)フライト・ディレクターの(揃いも揃って人相の悪い)写真があるが、その表情には(そう思って見ると)シラーの「俺が onboard flight director だ」宣言に、さぞや神経を逆なでされてハラワタ煮えくり返ったであろうことが窺えるような趣であります―その後の暗黙裡の処分を見るまでもなく。

 

 

その 930

 

その 342 に >アポロ7の打ち上げの数日前、シラーはカモ狩りに出かけ と書いて、そのソース―

 

Wally Schirra caught a cold a few days before the launch while duck hunting in a Florida swamp. (From The Earth To The Moon and Back Again)

 

も示してますが、ウォルター・カニンガムによれば、正しくはカモ狩り(duck hunting)じゃなくてハト狩り(dove hunting)で、一緒に同行したそうですよ。

 

打ち上げの 4 日前(10月 7日か)そろそろフロリダも寒くなってきて、その日は雨だったというから、やっぱり >不用意と言う他 ありますまい。(Cunningham: Well, the cold—4 days before the launch, we went dove hunting. This was October, and it was kind of an early—dove were pretty good down there in Florida, and so we had some cold weather come in. So, we went dove hunting. It rained. And I think what’s happened is that’s where the cold came from. ―24 May 1999)

 

ちなみにシラーに言わせるとカニンガムは(アイズリと違って)扱いにくい男で(Walt was very difficult to work with.)、ジョーがアドバイスするには「小犬みたいに耳の後をかいてやったら何でもいうことをきくわよ」(“He’s like a puppy dog. Scratch him behind the ears, and he’ll do anything you want.”)―

 

 

その 950

 

アポロ 7 の反乱のトドメとなるヘルメット事件について、ちょっと補足説明しておくと―

 

シラーは(おそらく打ち上げ数日前の狩りで冷たい雨に当たったせいで)風邪を引いていて、アイズリとカニンガムにもうつしてしまう

 

宇宙(無重力)では粘液が流れにくいので鼻づまりが酷く、シラーらはアクティフェド(Actifed 鼻づまり薬)をしこたま服用し、本当にクリネックスを殆んど使い果たした(9/10箱)

 

再突入の際にヘルメットを被っていると、当然鼻がかめない悲惨な状態に―そのままでは(気圧の変化で)鼓膜を破る怖れもあり、3人ともヘルメットを被らないという合理的な判断を下す

 

かくしてシラーは(ジェミニ 6 のスプラッシュダウンの際、ジェミニ 3 のグリソム・ヤングと全く同様に、開いたパラシュートの衝撃でヘルメットを割った経験がありながら)頑として地上からの指示に叛き(スレイトンの説得にも耳を貸さず)、アポロ 7 のクルーはヘルメットなしで再突入、それでも無事に帰還した

 

という事件の顛末ですね。

 

註) マーキュリー、ジェミニのヘルメットは faceplate が開けられたが、アポロのは金魚鉢 fishbowl スタイルなので被ると鼻を掻くことすらできない。

 

 

余談(後日談)

 

シラーは後に Actifed の TV コマーシャルをやるワ、Kimberly Clark 社(クリネックス)の役員になるワ、ちゃっかり宇宙風邪の(禍転じて福となし?)けっこうな余禄をフトコロにしたとか(しないとか…)

 

シラーとアイズリの二人が Only Actifed! とアピールするCM スポットが You Tube で見れる。 (他にシラーとアポロ 12 のアル・ビーン、ディック・ゴードンの 3 人バージョンなども)

 

※ シラーが宇宙風邪ではなく本当は宇宙酔いだったとすれば、当然 カニンガムとアイズリもシラーから風邪をうつされたんじゃなく宇宙酔いだったということになる。

 

シラーは風邪の元凶と謗られてるけれど、全くの濡れ衣なのかもしれず、アポロ 7 の反乱も(クルーの宇宙酔いに起因する部分がありそうゆえ)その問題点については再考の余地があるやもしれない。

 

 

ただし、カニンガムの説明によると基本的に真相は違っていて、一般に流布されてるようにクルー全員が風邪(に似た症状)になったりはしてなくて、アイズリは兆候を示したものの、カニンガム自身は何の気配もなかった(“We did not all have colds. Wally only had a cold by day two, Donn had a couple of indications, and I never had any sense of a cold.”) そうなので、反乱の要因は全員が風邪(或いは、宇宙酔い)とはならない―と言うより、むしろ正しくはクルー全員による反乱ではなかったのか。

 

いみじくもカニンガムは “Wally was such a personality that if he had a cold, everybody had a cold.” と指摘していて、要するにアポロ 7 を仕切っていたシラー船長一人の問題(問題はシラー)だとばかりに―

 

“it was always a case of who was in charge. He was a Navy guy, he was a Navy captain. Captain’s in charge of the ship, so Wally was always insisting that it was what he had to say.”

 

と主張している。(←こんなとこなんでしょう、シラーに Walt was very difficult to work with. と思われるのは)

 

 

まあ、その辺に関してはシラー本人の解説(“Don’t mess with me, guys!  This is my command.”)で(純正ライトスタッフ・ファンとしては)納得できますね―

 

But by then, everybody was saying, “These guys are getting testy up there.  They’re not mutinied, but they’re not going along with the flight controllers.”  I have yet to meet a flight controller that ever died falling out of a chair like this.  That was my whole attitude from then on.  “Don’t mess with me, guys! This is my command,” and I wasn’t kidding.  And, “I’ll take all the advice, all the information you can give me, but don’t push us around.  We’re still worried about whether this is a safe spacecraft or not.”  (Oral History Transcript Walter M. Schirra, Jr.  1 December 1998)

 

 

We’re still worried about whether this is a safe spacecraft or not.

 

アポロ7は(アポロ1の事故後の)最初の有人ミッション、ただでさえナーバスになってるところに打ち上げ前からゴチャゴチャあって、すんなりいく(それこそ)「風向き」じゃ全然なかったのだから。