【誰にともなしに、独り言レス―その3318】
その2773~2782(2018/ 6/ 7)
関連レス―
その 927~928
アポロ 7 はシラーが宇宙で初めて風邪を引き、更にドン・アイズリとウォルター・カニンガムにうつしたミッションですが、シラー船長を苛々させ反抗的にさせた原因(きっかけ)は実は風邪ならぬ風だった。
シラーは打ち上げの際に海からの強風が吹いている場合は中止する("We don’t launch if the wind’s going to blow us back over the beach.")という a new Mission Rule を事前に提案し、その旨 ちゃんと取り決めていたにも拘らず、いざそうなっても風のルールが無視されたことで打ち上げ前から十分すぎるほど苛ついていた。
「人類、月に立つ」 Part 3 で「この風は嫌だ」(We're not happy about the wind situation here.)とごねるシラーをスレイトンが「気象学的には打ち上げに何の支障もないそうだ」(We have been assured by Meteorological that we have an acceptable launch condition.)と説得し、ようやく「ディーク、お前が大丈夫ってんなら大丈夫なんだろう」(Deke, if you say we're in the ballpark, then I guess we're a go.)とシラーが聞き入れ、ついに初のアポロ有人ミッション めでたく リフト・オフ! てな調子で描かれてるのは(例によってハリウッド式の)体裁付けで、話はそれ以上(肝心の風邪にも反乱にも)及ばず Everything is A-OK といった感じでエンディングとなる。
けれど、実際は「人類、月に立つ」みたいに冗談事じゃなく、マジ 頭にきてたとシラーは証言しております。 ("I was furious. It was not as jocular as it looked as on 'From the Earth to the Moon'.")
シラーが風の状態を気にしていたのは(「人類、月に立つ」で説明されるように)打ち上げ時に何か危険な トラブルが発生すると、非常脱出ロケットでカプセルを飛ばしパラシュートで海に着水して避難する手筈になってるが、もし海から強風が吹いてればカプセルが陸に吹き戻されてしまい、着地のショックで(着水とは違って転がったりするから)中のクルーは酷いダメージを受ける可能性がある。
シート couch がしっかり持ちこたえられるなら問題はないけども、アポロ 7 (BlockⅡ仕様)はアポロ 1 (Block I 仕様)と同じ旧いシートを間に合わせに使っており(←当然 BlockⅡcouch にすべきところを時間的に間に合わなかったので、ちょっと手直しした Block I couch を装備したらしい)、これだと着地 land landing に耐えられそうにない―その点をシラーは不安視して風向きが悪ければ打ち上げを中止すると取り決めていたわけです。
ところが、それを合意していたはずのミッション・コントロールが破り(someone broke that rule.)、やむなく シラーは妥協した(I was compromised.)―こういった状況をシラーは "go" fever ("go" fever meaning that we've got to keep going, got to keep going, got to keep going! ←イケイケ熱とでも訳しますか)と表現しており、あのアポロ 1 の火災事故においても、ガス・グリソム自身が "go" fever にかかっていたという(シラーならではの興味深い)見方をしている。 (Gus, I can recall saying, "If I can't talk to the blockhouse, how the hell are we going to go to the Moon with this damn thing?" That's how bad the communications were. He should have scrubbed. He didn't. He was himself involved in "go" fever.)
その 943~949
“Jolly Wally” ことウォーリー・シラーは(ジェミニ 7 とのランデブー・フライトを終え)ジェミニ 6 を大気圏に再突入させんとした際(1965年12月16日)、具体的な UFO 目撃報告をしている―
"We have an object, looks like a satellite going from north to south, probably in polar orbit.... I see a command module and eight smaller modules in front. The pilot of the command module is wearing a red suit."
つまり、その物体は前部に 8 個の小型のモジュールがあって司令船のパイロットの服は赤―ま、ふざけたことに UFO の正体は 8 頭のトナカイ(eight smaller modules)とソリ(command module)で、むろんパイロットはサンタクロースというわけですが、そうやって前フリをしておいて、やおら(密かに持ち込んでいた)ハーモニカで「ジングル・ベル」を吹奏! (ベル伴奏を担当したスタフォードによると、この企みをシラーが打ち上げ数週間前に発案し、何度かリハーサルして準備していた)
こんな調子だったんですね、アポロ以前のシラーは…
参考 1
完全に一杯喰ったヒューストンでは capcom のエリオット・シーが (ミッション・コントロールを代表して)"You're too much." と呆れたそうな。
参考 2
一説によると、最初に UFO の暗号コード(即ち Santa Claus)を使ったのは他ならぬシラーだとかで、その事をギャグにしたイタズラだったか。
参考 3
シラーが吹いたミニチュア・サイズのハーモニカは a tiny, four-hole, eight-note Little Lady model manufactured by Hohner で、スミソニアン博物館に(スタフォードの小さなベル・セットと一緒に)展示されてるらしい。
“Jolly Wally”(light-hearted, joking)Schirra がアポロ 1 の事故~アポロ 7 の間(自らも周囲も認めてるように)すっかり人が変わったのは(それ以前のように)そうそうフザケてばかりもいられないシビアな状況になった(グリソムらの事故死を経てアポロ最初の有人ミッションを船長として担わなければならなくなった)ということで、気難しく頑固で神経質にして短気(←むしろ「ライトスタッフ」におけるランス・ヘンリクセンに似合ってそう)なキャラが例えば前述した風のルール問題に窺える。
それにノース・アメリカン社のジョン・ヒーリーが「シラー大佐とは折り合いよく やってきてるんですか?」(So you and Captain Schirra have always gotten along?)との架空のインタビューに「いや、初めはウォーリーも他の二人も扱いにくかったね」(No, Wally and his crew were quite a pain in the butt.)(シラーの表現では「囲いに入れられた二羽のチャボみたいなものさ」John Healey and I were like two roosters in a pit.) 「(マンハッタンの電話線並にケーブルがあって余りにシステムが複雑なので There's more cable than AT&T laid out in Manhattan.)宇宙飛行士のワガママばかり聞いてられないんだよ」(We did not need spacemen running roughshod over the plant.)
「デッドラインが迫ってるのに、あらゆる決定に参加させろと言ってきた」(There were critical deadlines. Wally was demanding to be in every decision.)などと応える(「でも、アポロ 1号の事故の後だと当然のことじゃないですか?」Did that surprise you, though, considering the Apollo 1 situation? と架空のインタビューアは反論する)シーンがあり、その頃のシラーが実際に(カプセルの製作段階から)あれこれ細々と執拗に口を挟む一筋縄ではいかない a hard-nosed commander who demanded attention to every detail だった様が(シラーは人が変わったんだと知ってないと見てるだけでは分らないにしても)全体的に描かれている。
(端的には、ディー・オハラ 「今日はイタズラはなし?」No gags today? ウォーリー・シラー 「下着の中に入れ歯のオモチャを仕込むつもりだったけど、やっぱり止めた」I considered putting chattering teeth in my underwear but decided against it. というやりとりの短いシーンが以前の “Jolly Wally” ではないことを示してくれてはいる―が、それでも事情を知ってないと意図されたものは分るまい)
このシラーが主人公である回(Part 3 : We Have Cleared The Tower)にギュンター・ウェントが登場するのは、そんなシーンがあるわけではないが実はシラーが全幅の信頼を寄せるウェントをアポロにおいても pad leader に引き入れるよう強く要請したからで、NASA はマクダネル社(←マーキュリー、ジェミニ担当)のウェントをノース・アメリカン社に異動して発射台に復帰させた―もしもマーキュリー、ジェミニ同様ウェントがアポロ 1 の時も傍に付いていたなら事故はなかったろうと、シラーのみならず旧知の飛行士は感じていたらしい。
そのウェントが人が変わったはずのシラーに「変わらないな」と笑うシーンがあって、打ち上げ前夜に発射台で独りカプセルをチェックするウェントのところへシラーがやって来る―
W 「やっぱりな 顔を見せると思ってた」(I was wondering when you'd stop by.)
S 「ああ、昔からの癖でね 船出前の最終確認だ」(It's an old habit.Checking out the boat the night before we ship out.)
W 「変わらないなぁ…どうぞ、我がオフィスへ」(I remember well. Please step into my office.)
この「変わらないなぁ…」は I remember well… と聞こえる―むろん間違いでも何でもない(こなれた)訳ではあるけれど、わたしの解釈(シラーは人が変わったという隠しテーマ)からすれば「そうだったな」くらいにしてもらいたいセリフですね。 (実際にはウェントもそう証言してることだし―"After the fire, he changed quite a bit.")
カプセルの最終確認をするシラーのところへ今度はジョン・ヒーリーがやって来て―
H 「寝る前に見ておきたくて」(I came to check on her before I hit the sack.)
S 「俺たち、似てるな」(Great minds, you know?)
H 「確かに」「頑張れよ…ボン・ボヤージュ、いい旅を…何て言えばいいんだ?」(You bet. Well Well Good luck tomorrow. You know, bon voyage. Have a nice trip. What do they say before a launch?)
S 「リフト・オフだよ、リフト・オフ!」(Liftoff! So it's the night before the launch.)
と、それまでのワダカマリもどこへやら、すっかり意気投合した「二羽のチャボ」は肩を組んで笑い合う。
このシーンが仮に(ある程度は)本当の話だとしても(シラーが " It was not as jocular as it looked as on 'From the Earth to the Moon'." と言うように)そう簡単に事態は納まらない―打ち上げ時にジョン・ヒーリーと取り決めていたはずの風のルールが破られ、ついには "シラーのアポロ 7 " は反乱を起こすのだから。
(註:「俺はテストパイロットで航空工学を学び宇宙に行ってる、しかも船長だ」"I'm a test pilot, I've got a degree in engineering. I've been in space, and I'm in command of this mission." というシラーのセリフがあるが、アポロ 7 は単にシラーが船長 CDR という以上の意味合いで "Wally's mission" 或いは "Wally's flight" と呼ばれる)
アポロ 7 のクルーは " Wally, Walt, and Donn Show " と銘打った宇宙初の TV生中継をして(その年のエミー賞 a special Emmy award を取るほど)好評だったけれど、ここでシラーは一悶着やらかし完全に地上と決裂している。
予定では日曜のオン・エア(と言うと大気圏外なので語弊があろうが)なのに、地上から金曜(打ち上げ当日)の夜に、早速 明日(つまり土曜)の朝に生中継を始めるよう言ってきたのを、シラー船長は(まだシステムのチェックが済んでないと)すげなく蹴って、「俺のやりたいようにやる」的な態度(“Don’t mess with me, guys! This is my command.”) に出た。
シラーの「俺のやりたいようにやる」は(好き勝手とは全く逆に)きっちりスケジュールに従って間違いなくやるということで、偏に(アポロ 1 の事故の後の、まさにアポロ計画そのものとクルー自身の命運がかかった)ミッションを 100% 完遂させんがための信念(頑固さ・気難しさ)であり、アポロ 7 が "Wally's mission" と呼ばれる所以だと思われますね。
参考
シラーは TV中継を日曜まで始めない理由を “I don’t want to interrupt Howdy Doody.” と言うべきだったと後に語っていて、“Howdy Doody” は土曜の朝に放映されていた人気子供番組―もっとも、とっくに(1960年)に終了していたようなので、そんな(やってもない TV番組を中断させるには忍びないという)とぼけたジョークで地上からの寝言を(角を立てずに)かわせばよかったという意味でしょう、たぶん。 (←いつもの “Jolly Wally” ではなかったわけです)
カニンガムの証言では(後で " Wally, Walt, and Donn Show " とタイトルを付される)TV生中継は予定の 24 時間前でも(問題があったにしろ)始めようと思えばやれた―が、「俺が船長だ」(“Who is in charge?”)モードのシラーには(風邪でご機嫌斜めでもあるし)二人の新米クルーは黙って従うしかなく(We were rookies and it was "Wally's flight")、ミッション・コントロールと(何だかんだ言い争い)いがみ合っていたのは専らシラー船長(とアイズリが少し)でカニンガム個人は地上とは何もなかったとか。
しかしながら、アポロ 7 は他にも予定の変更や新たなテストの要求に対し "We're not ready for this." と応えたけれど、結局は(いくつかの追加テストをこなし)100% 以上の目標を達成して(101% successful と評されて)おり、"Wally's mission" そのものに対しては誰も文句を付けられない見事な成功を収めて帰還している。 (一方で、噂では地上の管制官の間でアポロ 7 をハリケーンの海域に降ろすというシャレにならない計画が囁かれてさえいたらしい ←あくまでも噂)
ただしカニンガムによると、シラーは(慎重にして周到にも)当初案のもともとの目標を控えめ(60~75%)に削減・縮小させていたので、本来なら余裕でもっとやれた―ミッション(11日間)の最後の数日は暇を持て余したというのが実態だったそうな。
参考
クリス・クラフトは That son of a bitch will never fly for me again! と激怒してスコット・カーペンターを海に沈めたけれど、アポロ 7 でも "These guys will never fly again." と言ったとされている―この guys とは、もちろん(アポロ 7 を最後に NASA を辞めると公言していたシラーを除く)カニンガムとアイズリを指す。
が、その噂を聞いたカニンガムがクラフトに面と向って "Is this true?" と問い質すとクラフトは "I never said anything like that." と全否定したらしい。
それにカニンガム自身(少なくとも公式には)誰からもそんなことは言われなかったとか。
しかし、厳然たる結果としてカニンガムは(アイズリ共々)二度と飛ぶことなく NASA を去った―スカイラブの最初の船長に内定していたにも拘らずである。 (←クラフトはカニンガムにはチャンスをやるつもりだったのに実現する前に辞めてしまったという何だか釈然としない言い方をしているようですけど)
もしもアポロ 7 でシラーが(相も変わらず “Jolly Wally” のままで)地上といがみ合わなければ、最初のスカイラブ 2 はピート・コンラッドに任されてはいなかった…