【誰にともなしに、独り言レス―その3329】
その1102~1105
「アポロ 13」におけるスワイガートは冒頭のパーティ・シーンからチャラチャラ(telling a blonde girl)した男に描かれていて、マッティングリーとの交代を知らせる電話がかかるのは in the shower with a girlfriend だったし、中盤で Dick Cavett (TV)が―
「港々に女がいるタイプ」(has a girl in every port)
「女を口説こうと月にもチョコを持っていった」(taking nylons and Hershey bars to the moon)
とジョークにしてるように、まぁ実際そんなふうなチャラチャラした男だったとしても、ちゃんとスワイガートは独身(first bachelor astronaut)だと断ってネタにされている。
他の連中と違ってスワイガートは(当時は唯一の)独身宇宙飛行士であるから、いくらチャラチャラしようが誰にもとやかく(例えばジョン・グレンに "keep your pants zipped" なんて説教を)言われる筋合いではなく、間違っても(ずいぶん評判のよろしくない)ドン・アイズリなんぞと一緒くたに(同一視)してはいけません。
打ち上げ前夜にラヴェルとヘイズに妻(と子供)が面会に来るシーンで、スワイガートには "Ja~ck!" と黄色い声がかかるだけ(姿は見えない)―むしろロン・ハワードの狙いは(スワイガートのチャラチャラにではなく)家族のあるラヴェル(とヘイズ)に対比させることにあろう。 (←ジム・ラヴェルとマリリンに「ライトスタッフ」のジョン・グレンとアニーを投影させているとも言えようし)
新入り CMP のスワイガートは月着陸クルー(ユニット)のラヴェルとヘイズからは仲間はずれで(元 CMP のマッティングリーについては we can predict each other's moves、we can read the tone of each other's voices と阿吽の呼吸のチームワークを強調するくせに)一人だけ完全に疎外された厄介者さながらに描かれる。
その(わざとらしくもベタな)構図をストレートに示すシーンが LM の CO2 フィルタ問題のヘイズとスワイガートのやりとりで、ヘイズ(LMP)は 3 度も計算してチェックしたので CO2 ゲージの数値のほうがおかしい(That can't be right. I went over those numbers three times.)と言い張るが、すぐに単純な計算間違いをしていたことに気づく―
H : Christ, I know why my numbers are wrong. I only figured it for two people.
S : Maybe I should just hold my breath.
哀れ (CMP の)スワイガートは 2 人乗り仕様の LM では数に入れるべくもない余計な(むだに息さえできない)存在―まさしく「ライトスタッフ」に言う a redundant component(冗長装置)なのだった…
参考
即席の CO2 フィルタの作成は(「アポロ 13」で描かれてるのとは全く違い)実際はスワイガートと capcom のジョー・カーウィンとの交信によりなされていて(その3001参照)、その間 ヘイズはと言えば一人グウグウ眠りこけていたとか―従って、ヘイズは CO2 フィルタ問題の解決には寄与しておらず、これに関しては(スワイガートではなく)ヘイズこそ a redundant component そのものだった? (結果的には月に着陸しなかったのだから LMP の出る幕はなかったわけで、言ってしまえば事実上むだな存在―対し、CMP のスワイガートがいなけりゃ アポロ13 は無事に戻ってこれなかったかも)
参考の蛇足
ラヴェル船長なら(CMP の)スワイガートがいなくても地球に戻れたと言いかねないが、司令船の操作やら何やらスワイガートの貢献度は(少なくともヘイズよりは)大きく、無事に戻るには不可欠だったはず。
と言って、わたしはスワイガートを擁護しているだけで、ヘイズを非難(否定)してるのでは勿論ない―ヘイズは不運にも(少なくともスワイガートよりは)出る幕がなかったと言ってるだけで。
ヘイズは同期の 19 人(Group 5)のなかでも優秀だったそうで、アポロ13 が予定通りフラ・マウロに着陸していたら、ヘイズは LMP として(得意のドリルで―その3256参照)いい仕事をこなしたに違いなく、更にはプログラムが縮小・削減されなければアポロ19 の CDR として月ミッションをやり遂げていただろう。 (←ラストのナレーションではヘイズのアポロ18 がキャンセルされたとしてるが、ヘイズのコマンドはアポロ19)
そう言えば、マッティングリーが交代させられて地上にいた(司令船のシミュレーションができた)から、アポロ13 は無事に戻れたと感じてる向きもあるようだけれど、あいにく「アポロ 13」で殊更かっこよく(一人だけ目立って)ドラマチックに描かれるマッティングリーは(多くの地上のスタッフを集約した)いわば象徴としての虚構の存在(その証拠に実物は禿のキューピー頭です)にすぎず、現実に一人マッティングリーの働きがアポロ13 を救った(マッティングリーがアポロ13 に乗っていたら戻ってこれなかった)というわけでは全然ない。 (←風疹の元凶のデュークまでもが病床を抜け出し裏方で LM の軌道修正シミュレーションをしていたとも聞く)
代わったスワイガートがヘマをしでかし、それを代えられたほうのマッティングリーが救う―よくあるハリウッド式の展開、あくまでも「アポロ 13」は(ロン・ハワードが創作した)映画であって、あまり(ナイーブに)真に受けないようにしましょう。
スワイガートが(in the shower with a girlfriend のシーンで)バックアップは雑用係を仰せつかっている(The back-up crew has to set up the guest list and book the hotel room.)と説明するが、もとネタは(たぶん)ラヴェルの証言(Johnson Space Center Oral History 25 May 1999)で―
normally the backup crew at that stage are the gofers ~ they get the hotel rooms for the guests.
などとインタビューで応えている。
なので スワイガートが打ち上げ前は(あれこれパシリで忙しく)しばらく 訓練から離れていたのは本当のことのようで、それでも直前の(わずか) 2 日間で―
Jack proved out to be a very, very competent pilot ~ he appeared perfectly comfortable with the vehicle.
と言わしめるほどの何の不足もないスキルを実際は示しており、映画はウソだ(the movie shows you a little bit different.)とラヴェルは明かす。
ただ、やはり 少なくとも当初は―
Jack hadn’t really been part of the team.
と付け加えておりますね。