【誰にともなしに、独り言レス―その3200】
Cooper patch 関連―
その 356 ～359 （2004/ 4/12～15）
マーキュリー（とジェミニ 3）では、スペーススーツには名札と NASA のワッペン（エンブレム）を付けてただけで、まだミッションパッチという発想はなかった。
ジェミニ 4 から宇宙船に（公式には）ニックネームを付けられなくなる―じゃ、その代わりにってんで、スペーススーツにミッションパッチを貼り付けるようになったんですね。
だから、最初にスペーススーツにミッションパッチを付けたのはジム・マクディビットとエド・ホワイト―と言っても、このジェミニ 4 のミッションパッチというのは単に星条旗（← American Eagle と符号してる）そのもので、以来 これは伝統になって（と言うか、それまで付けてないのがおかしいとなって）アメリカの宇宙飛行士は必ず星条旗のパッチを付けてます。 （従って、それ以前のマーキュリーとジェミニ 3 には公式のミッションパッチはない）
その星条旗のパッチとは別に、個別のオリジナルのミッションパッチを最初に付けたのがジェミニ 5 ―他ならぬ目立ちたがり屋のホットドッグことゴードン・クーパー Leroy Gordon Cooper とピート・コンラッド Charles "Pete" Conrad。
それ故に、ミッションパッチは総じて Cooper patch と呼ばれたりもするわけであります。
Cooper patch 発祥のイキサツは―
ジェミニ 5 の打ち上げ 2 日前、ホットドッグとコンラッドは、ジェームズ・ウェッブから慣例のディナー（於：ロバート・ギルルース宅）に呼ばれる。
この席で、ホットドッグ船長は（既に作ってた）ミッションパッチのことを切り出しました―
「あんたが宇宙船に名前を付けるのを禁止したりするもんだから、ピートと二人でシャレたミッションパッチを作ったよ、イメージ的にアピールするように」とか何とか。
ウェッブは、そんなスタンドプレーと言うか、ミッションを個人的な手柄みたいに扱わないように努めてたんで、もうそれだけで切れちゃったらしい。（熱くなりすぎたウェッブとコンラッドが今にも殴り合うすんでのところで、ホットドッグとギルルースが間に入って宥めたほど）
そこをホットドッグは「そうじゃなくて、このミッションパッチを付けてる皆でジェミニ 5 を飛ばしているということをアピールするためだよ」とか何とかウェッブを上手く説得して認めさせたんです。（'It's not just for the guys flying,' I went on, 'but for the hundreds of people working on the launch equipment and operating the worldwide tracking range and all the other things that go into a successful mission. Wearing that patch tells the world that they worked on Gemini 5.'― Leap of Faith）
ただし、ひとつだけ条件がありまして、そのオリジナルのデザインには、どうしてもウェッブの気に入らないところがあったんですね―で、それを変更するようにと。
ジェミニ 5 のミッションパッチは、幌馬車（Conestoga wagon）のデザインでした。
それは（コンラッドの義父か誰かが木彫りの模型を削って作ってるのがヒントになったようで）西部開拓時代の象徴である幌馬車、つまり宇宙へのフロンティア・スピリットを象徴させたもの。
そのデザインそのものはよかったけども、それにかぶせてモットー（スローガン）を入れてたんですね―
8 Days or Bust （8 日間、でなきゃ失敗） と。
ジェミニ 5 は、ジェミニ 4 のフライト記録の倍、即ち 8 日間の宇宙飛行を目指してたゆえ。
このモットーは、ホットドッグにすれば、or Bust と言うことで自信と決意のほどを表明をしてるのでありましょうが、ウェッブ（とギルルース、そしてディーク・スレイトンら）にとっては全くもって望ましいものではなかった―そりゃそうでしょう、もし 8 日間に達しなければ、自分たちが「失敗でした、スマン」って頭を下げなきゃならないから。（That you cover the "8 Days or Bust" until you make the eight days. If you don't make eight days, I don't want the press having a field day about the mission being a bust.''― Leap of Faith）
そこで結局は、その（いかにもホットドッグらしい）自信過剰なモットーだけは削除する（正確には見えないようにする）ことで一件落着、実質的には最初のと言っていいミッションパッチが、ようやく認められたという次第―だからこそ、現在に至るまで Cooper patch と呼ばれわけです。
