独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3222】

 

その 797~799  (2005/11/30~12/19)

 

映画 「ライトスタッフ」 は 最後に “ The Mercury program was over. ” のナレーションで締め括ることにより(印象としては)ちゃんと話の落とし前をつけていると思う。

 

けれど、原作 「ザ・ライト・スタッフ」 は単なる序章―せいぜい、前・後編の前編にすぎない感じが(話の流れとしては)どうしてもする。

 

それは、イェーガーら(真のライトスタッフたる)テストパイロットとマーキュリー宇宙飛行士についてだけ描くのであれば―最初から、そういった目論見で書かれたものなら、決して ピート・コンラッドの話から始めたりしない(どころか、コンラッドの名前すら出す必要がない)だろうことは考えなくても想像がつくので。

 

それに、何も全体的な構成を云々するまでもなく、ちょっとしたクダリのあちこちに尻切れトンボが顔を覗かせてもいますので。

 

 

例えば、原作は(話のまとめであるはずの) 「エピローグ」 に―

 

七月、シェパードは左耳の耳鳴りとときおりのめまいに悩まされるようになった。 内耳の病気で、メニエル氏症候群の症状だった。スレイトン同様、彼も宇宙飛行士としては使いものにならなくなった。一方スレイトンは― (中略) ― 十九年いた空軍を除隊したのだ― (中略) スレイトンの問題は、空軍が彼を心臓疾患のため完全に地上勤務におろすことと関係していた。 (中略) それに、何と言ったって、宇宙飛行士として天空まであがった正しい資質の持主であることを、下のほうの段階(レベル)であるにしても、立証し続けたいという希望をいつまでも燃やすことができた。 [中公文庫]

 

In July, Shepard began to be bothered by a ringing in his left ear and occasional dizziness, symptoms of Meniere's disease, which affects the inner ear. Like Slayton, he had to go on inactive status as an astronaut and could only fly an aircraft with a co-pilot aboard. Slayton, meantime, had made a decision that would have been unthinkable to most military officers. He had resigned from the Air Force after nineteen years—one year short of qualifying for the twenty-year-man's pension, that golden reward that blazed out there beyond the horizon throughout the career officer's years of financial hardship. Slayton's problem was that the Air Force had decided to ground him altogether because of his heart condition. As a civilian working for NASA, he could continue to fly high-performance aircraft, so long as he was accompanied by a co-pilot. He could keep up his proficiency, he could remain on flight status, he could keep alive his hopes of proving, somewhere down the line, that he had the right stuff to go aloft as an astronaut, after all. (The Right Stuff)

 

 とまで書きながら、どういうわけか(むろん 意図された上だろうが)シェパードのアポロ 14 やスレイトンの ASTP には一言も触れておらず、これは単に前編の「エピローグ」にすぎない(←そのシェパードとスレイトンの しぶとい復活劇が後編で描かれる)といった趣で、いかにも無理やりトンボの尻をちょん切った感じがしてなりません。 (←わたしの個人的な印象では、この二人の美味しい話をトム・ウルフが捨ておくなんてことはありえない)

 

 

それを考えると、「ライトスタッフ」で シェパードがルイーズに月に行く宣言をするシーンは映画のオリジナルであるのはもとより、原作の不足分を補った(いわばトンボの尻をくっつけてやった)脚色だと分かります。

 

スレイトンに関しては、クーパー(フェイス7)のフライト時(1963年 5月)は既に Chief of the Astronaut Office で(1962年 9月~ 続いて Director of Flight Crew Operations のポストに就く)、その辺は映画でも描けるはずなのに、残念(にして当然のこと)ながら無視されている。

 

まあ、最初のシェパードと悲運のグリソムと英雄のグレンと最後のクーパーはマーキュリー宇宙飛行士の話として外せないので、これにスレイトンの(外れ)エピソードを絡めるとなると、更に深みとか厚みは増すにしても(いたずらに)ややこしくはなろうけど。 (←時間的には、どれほど 193 分が延びようと、延びるぶんには一向に構わないが)