独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3160】

 

その 299~321 (2004/ 2/ 7~25)

 

さて、あらかたマーキュリー13 についてのジェンダー論的考察(←「宇宙版プリティ・リーグ失敗編」?)がなされたところで、今回の自由講座の主テーマである、マーキュリー13 を立ち上げた張本人―

 

ジャッキー・コクラン  Jacqueline "Jackie" Cochran

 

の話。

 

彼女は 1932年にビジネス上の必要に迫られて、つまり手広く化粧品をセールスするためにだけ(別に飛行機には興味なかったのに)パイロットのライセンスをパパッと(普通何ヶ月もかかるところを賭けをして 3週間以内で)取ったんですが、いつの間にかエア・レース熱にかかってしまい(そのずば抜けた天賦の才を発揮して)ありとあらゆるトロフィーを獲得。

 

そして後に 1953年、F-86 セイバーで―

 

she became the first woman to break the sound barrier.

 

ということで(その他の数多くの偉業も併せて)、航空史に堂々その名を刻む。

 

 

sound barrier とくれば、否が応でもチャック・イェーガーの変な顔(←サム・シェパードじゃなくてフレッドのほう―つまり、本物の)が思い浮かぶが、ジャッキー・コクランは、実のところ(諸説あって、おそらく 17、8歳も下だった)イェーガーとは、そりゃもう親密な間柄だったんですよ。

 

ホットドッグがトゥルーディに We're a team. と言うでしょ、「ライトスタッフ」で。

 

あれと同じこと言ってるんです、コクランは―イェーガーとはチームだ、って。

 

イェーガーは、音速の壁を破った後(1947年)しばらくして、コクランに紹介―てゆうか、ツバつけられて(有無を言わさず)昼メシに付き合わされる羽目に。

 

そこで、このブロンドのコスメチックおばさん(←歳のわりには、写真で見るよりずっと可愛い感じであったらしいが、どことなく「ロボコップ」のナンシー・アレンみたいな)は、若き超音速パイロットに向かって、いきなり↓こう嘯く―

 

If I were a man, I would've been a war ace like you.

 

ジャッキー・コクランが、後に(マーキュリー7に対抗するようにして)マーキュリー13 を立ち上げるのは、歴史の必然だったと思わせてくれる(ある意味感動的な)セリフじゃないですか、これは。

 

(そう言えばコクランは、パンチョ・バーンズとは、まさか恋の鞘当てでもないでしょうけど、犬猿の仲だったらしい―ま、肝心のグレニスとは、案外と互いの夫婦ぐるみで付き合うほどの仲よしだったから、その点はご心配なく)

 

 

空軍の英雄 チャック・イェーガーと、民間のスーパーレディ(空軍予備役中佐)ジャッキー・コクランとの(エドワーズにおける)密接にして強固な(パイロットとしての師弟)関係を考えると、「ライトスタッフ」にコクランが登場しないのが不思議なくらい。(←ジャッキーはジャッキーでもファーストレディのほうは登場)

 

と言うのも(「ライトスタッフ」の話のネックとされる)イェーガーとマーキュリー7という(本来相容れない)対立項は、マーキュリー13(裏ライトスタッフ)を立ち上げたジャッキー・コクランの存在によって、無理なく(と言うより、むしろ必然的に)リンクさせることができるのに―何でコクランを登場させないかなぁ…と、わたしなんかは思うからである。

 

もっとも、いざそうしたらそうしたで、話のテイストが全然違ってはくるけど―ありがちなとこで、イェーガーとコクランの淡いラブ・ロマンスがかったやつとかに。(作品的には堕落ってやつ)

 

余談

 

そうなると、当然のことながらジョン・グレンは(嫌味な本性?が隠せない)敵役になりましょうから、グレン役には(ミスター・クリーンマリーンの)エド・ハリスじゃなくて(より本物にそっくりで、かつダーティな匂いのする)カートウッド・スミスが適任でありましょう、絶対。

 

カートウッド・スミスを知らない人は、「おっさん脇役」並びに「すごかった悪役」の超エキスパート duvall_san さんにお尋ねするように)

 

 

それだと、もはや現「ライトスタッフ」とは違う(マーキュリーはオマケで、イェーガーに比重の偏った)丸っきり別の映画(例えば、題名は「音速の彼方へ」 Beyond The Soundbarrier あたりで)になってしまいそうだが、それはそれで見てみたいか。

 

そのラストは、正しい時系列を(ライトスタッフ式に)あざとく逆にしないで、ホットドッグのフェイス7の打ち上げの後で、イェーガーの NF-104 で締めくくってもらおう。

 

スペーススーツのイェーガーを見送るのは(ジャッキーはジャッキーでも)ジャック・リドリーには史実通りいなくなってもらって(イェーガーは、いつもの癖で「リドリー、ガムをくれよ、後で返すから」と、つい呼びかけてしまうが、「リドリーはもういないわ」と、おもむろにガムを一枚差し出したのは)麗しのブロンド、ジャックリーン・コクラン。 (←むろん、ちと実年齢より若造りする必要があろうけども、コクラン化粧品で―いや、設定を)

 

あ、それよりコクランは F-104Gをマッハ 2 でかっ飛ばしてるくらいなので、ちょっと作って(もともと「ライトスタッフからして NF-104 のシーンは、ちょっとどころか、そうとう作ってるんだし)いっそのこと、イェーガーとコクランとの F-104 ランデブー・フライトにしたら(絵的にも)面白いか―

 

実際 イェーガーは、コクランをサポートして逆にチェイスしたことがありますから。 (←そうとくれば、題名は「恋のスターファイター」 In Love with The Starfighter 或いは「星の戦士に恋して」あたり―何たる堕落…)

 

 

1953年 5月、コクランが F-86音速の壁を破った時、チェイスはイェーガー。

 

コクランにとっては、心底頼れる相棒(即ち、チーム)兼 かなり年下のお師匠さん(教官)だったんですね、イェーガーは。

 

そのイェーガーも同年12月に X-1A でマッハ 2.44 を記録したことで、翌年 二人は一緒にホワイトハウスに招かれ、仲よく Harmon Trophy をアイゼンハワーから頂戴する。

 

コクランはアイクとは大統領になる前から(なってからも、ずっと)懇意にしてて、意外や意外、アホのジョンソンとは(腎臓結石で死にかけてたジョンソンを救急空輸してやって、文字どおりの命の恩人になったのが縁で)大の親友だった。

 

この(宇宙開発計画のボス猿だった)リンドン・ジョンソンのルートからも、コクランはイェーガーとマーキュリー7をつなぐ、まさしく liaison woman にふさわしい存在と言えようが、マーキュリー13 とリンドン(←と、コクランは呼んでいた)の他にも、実は驚くべき(もの凄い)別ルートがコクランにはあった―

 

コクランの旦那、フロイド・オドラム Floyd Odlum こそがそのルートであります。

 

 

フロイド・オドラムは世界でも十指に数えられる富豪、ジャッキー・コクランは(そうとは知らず)何かのパーティで一目惚れして、自分のほうから(有無を言わさず)しっかりツバつけて、数年後に(おそらくオドラムが先妻と別れて)見事ゴールイン。(←コクランはみなしごだったとも言うから、それを思うと俄かには信じがたい夢のような展開でしょ、まんまオトギ話みたいな)

 

コクランにパイロットのライセンスを取るようにアドバイスしたのが、このオドラム(←ご自身もパイロット)なんですね、初めて話をした時に―その意味でも(自ら強引につかんだにせよ)運命的な出逢いと言っていいでしょう。

 

オドラムは、いわゆるタイクーンで(←デ・ニーロの「ラスト・タイクーン」というのがあるように、tycoon とは a person who has achieved great success in business and is very wealthy and powerful のこと)、RKOパラマウントといった映画会社のみならず、MSG やらグレイハウンド・バスやらヒルトンホテルやら、更にはコンベア社といった、あまたの事業(運営)に携わっていた。

 

そして、このオドラムのコンベア社(後のゼネラル・ダイナミックス社)こそが、何を隠そう―あの、アトラス・ミサイル(Atlas ICBM)を開発したとこなのである。

 

 

グレン、カーペンター、シラー、クーパーの有人軌道飛行に使われたマーキュリー・アトラス・ロケット(MA-6、MA-7、MA-8、MA-9)は、このアトラス・ミサイルを改造したもの(Atlas D)。

 

アトラスという名前の由来を(浅はかにも)ギリシャ神話から取ったなどとしているページもあるが、それは大きな間違い(と言うか、そりゃ言葉のもとの意味にすぎんだろ)で、本当はオドラムが創った投資会社 Atlas Corporation に因んで命名されたんですよ、アトラス・ミサイルは。

 

 

大恐慌の折、オドラム(の Atlas Corp.)は、とてつもない独り勝ちをやらかしている―その尋常ならざる先見の明ゆえに、Wizard of Wall Street と呼ばれたほどの。

 

具体的には、暴落する前に機を見て持ち株を全て売っ払い(皆~なが一文無しだって時に)まんまと 1400万ドルもせしめて涼しい顔をしていたと言うから、畏れ入る。

 

アトラスという名前には、そんなインパクトが込められてるんでしょう、きっと。

 

 

ですから、大げさでも何でもなく、オドラムがいなければ(オドラムが潤沢に資産をつぎ込まなければ)決してアトラス・ミサイルは(その頃は軍事的に ICBM なんて流行らなかったから)開発されてないし、そのアトラスがなければ、マーキュリーにおいて(レッドストーンによる弾道飛行はできたにせよ)有人軌道飛行は成しえなかった―つまり、マーキュリー計画そのものが成立していなかったということになるわけです。

 

タイクーン、フロイド・オドラムは間違いなくマーキュリーの立役者のひとりであったんですよ、マーキュリー・アトラスという名称が示しているように。

 

従って、コクランは(そのケツの下に敷いてた)旦那のオドラムというルートによって、イェーガーとマーキュリー7を、最もベーシックな(ケツの下の)ところでリンクさせることさえできると申せましょう。

 

が、しかし―落ち着いて考えてみれば、コクランを liaison woman として(さりげなく)「ライトスタッフ」に登場させたはいいが、こんなトンデモなスーパー(ソニック)レディは、それだけじゃちょいと役不足と言うか、大人しく収まってそうもないですな、どう見ても。 

 

ヘタすりゃ、イェーガーもマーキュリー7も脇に追いやられて、いつの間にか話は「ジャッキー・コクラン物語」にだってなりかねないオソレが…

 

ただし、その場合でも依然と題名は「ライトスタッフ」 The Right Stuff のまま―

 

なぜなら、その場合 ジャッキー・コクランこそが真のライトスタッフだった、という話のオチになるに違いないから。