【誰にともなしに、独り言レス―その3076】
その530 ~535 (2004/12/19)
超音速フライトを達成した X-1 のイェーガーに、P-80 でチェイスしていたボブ・フーバー Robert A. “Bob” Hoover は―
You got a steak dinner coming tonight at Pancho’s.
と、パンチョの店での祝宴を呼びかけてます。
「ライトスタッフ」でもイェーガーはパンチョの店の外で飲んだくれて遠吠えをあげてましたね。
あのシーンでリドリーらと動かそうとしてたオートバイ(ナックルヘッド)は、イェーガーがパンチョ・バーンズから貰ったもので、ヘッドライトも付いてない古物(ポンコツ)だったとか。
当夜 イェーガーらが実際どうしたかについては(なぜか、ほんとになぜか)諸説あって、フーバーによれば パンチョの店は早々に切り上げたらしい―と言うのも、これから盛り上がろうとした矢先に誰かがやってきて「この件は top secret だ」(フーバーが 「手遅れだ、もう話した」と応えると「今からは喋るな」)と水をさされたんですね。(「ライトスタッフ」では連絡官が少佐と飲みながら「いずれ情報は漏れるよ(Word will get out.)」 とか何とか言ってましたが、あそこと符合する気もしないでもない)
想像するに、その後(そそくさと河岸を変えて)イェーガー宅での二次会となったんじゃないでしょうかね、はっきりしませんけど―ほんとに、なぜかはっきりしない。(と、意味ありげにふっておく…)
当時、れっきとした空軍大尉であったイェーガーは、それでも(いわば X-1 プロジェクトの臨時雇いパイロットみたいなものだったから)基地内の施設には住まわせてもらえませんで、遥か 40キロ以上離れたところから通勤(グレニスの送り迎え)しておりました。
その自宅でイェーガーは リドリー、フーバー、ディック・フロスト Dick Frost らにマティーニを(ピッチャーに作って)振舞ったそう。 (これが実質的な一次会だったか ←端からパンチョの店での祝宴はなかったという説もあるし、逆にずっとパンチョの店で飲んだという説もある)
フロストはベル社の X-1 project engineer で、その日はイェーガーを(やはり P-80 で)チェイスしていた。
そうこうするうちに、リドリーが基地に戻って報告書を書かないといけないってんで(←飲む前に書いとけよ)、皆はイェーガー宅から今度はフロスト宅に河岸を変えることになり、その時にイェーガーは例のオートバイで行ったんですね。(となると、「ライトスタッフ」でのパンチョの店先のシーンは怪しい)
そうして 9 時頃かに再びイェーガー宅に引き返すが、その暗い夜道で(←何しろ月も出てなきゃヘッドライトもない)あわやの転倒事故を起こしてしまったという顛末のよう―性懲りもなくと言うか向こう見ずにもと言うか。(あの落馬事故を起こしたばっかですよ、イェーガーは…アホちゃうか)
無鉄砲にも(さながら X-1 の如く)オートバイを吹っ飛ばすイェーガーを(←酔っぱらって肋の痛みは完全に麻痺してる)、はるか後方から(P-80 じゃなしにジープか何かで)チェイスしていたフーバーとフロストは、きついカーブにさしかかるや、何とオートバイの下敷きになって横たわるイェーガーを発見する。
が、二人が仰天してオートバイをどかせてみると、幸い(酔っぱらいにありがちなことに?)イェーガーにケガはなく、どころかバカみたいに笑ってたのでありました―そして平然と立ち上がるやオートバイに飛び乗り(再び X-1 の如く)猛スピードで去って行ったのであった…
呆れた二人がイェーガー宅に着くと、ご主人は(すまし顔で)さっそくマティーニを用意してくれてたそうであります。
余談
聞くところによると、そんなイェーガーも 20年以上前に(たぶん「ライトスタッフ」撮影の頃か)飲むのをやめたとか。
もしそうなら、凸凹リクルータ・コンビのパンチョの店でのシーン―
フレッド:「ウィスキーやるかね?」 Y'all want some whiskey ?
連絡官 :「いや、コーヒーでいいよ」No, thanks, Fred. Just a little coffee.
凹 :「できたらコカ・コーラを」I'd like a Coca-Cola.
フレッド:「コーラ?」 Coke ?
この(アドリブっぽい)やりとりは自身への当てつけみたいな意味合いもあるのかも。
さて、そもそも 1947年10月14日に「イェーガーの超音速フライトを祝う夕べ」が(当たり前に言われるように)パンチョの店で実際にあったのかどうかについては、正直申しますと(心のどこかに)いささか引っかかるものがありまして―
確かに(前述のフーバーの証言を出すまでもなく)他ならぬイェーガー本人がそう言ってるんですから疑う余地のないことだとは思うが(むろん「ライトスタッフ」は当てにならないけど)、それにしては(口外を禁じられたからという理由で)パンチョの店ではやらなかったという記述が目に付くんですよ、けっこう。
そのこと自体は別にどっちでもいいんですが、なぜパンチョの店でやった、やらなかったと正反対のことが言われるのか―今や知らない人はいないくらいに有名な話なのに、ちょっと変じゃないですか。
実は(ひょっとしたら)その辺に何か関係してるのかもしれない興味深い事実があって、それが妙に引っかかってるんですね―いつもの悪い癖で。
それは「いったい、史実とは何か?」に(つらつら)書いたジョージ・ウェルチのことが、どうにも頭によぎる(←かかる症状は一般に妄想と呼ばれる)のであります―
ウェルチは、その 10月14日に超音速で飛んでいる…
「ライトスタッフ」で X-1 のソニック・ブームが初めて地上に轟くシーンがあるが、ほんとは(じゃない可能性も勿論あるけど)それより先に(かつ、より大きく)ウェルチの XP-86 によって起こされたソニック・ブームがミューロク(エドワーズ)に轟きわたっていた―あくまでも、そういう説があるって話。
確かなのは、ノースアメリカン社のテストパイロットだったウェルチが、同じ日に XP-86 の超音速フライト(ダイブ)を試みて(それを成功させたと主張して)いたということ―空軍のイェーガーが X-1 で成功させる 15分位前に。 (その衝撃で X-1 を抱いた B-29 が振動してるはずなので、イェーガーを含むクルーは当然そのことに気付いていた…?)
そして(わたしにとって)興味深いことに、その頃ウェルチはパンチョの店(Pancho's Fly Inn ―後に Happy Bottom Riding Club と呼ばれる)に滞在していて(←これは事実)、その夕方にはノースアメリカン社の連中が店で飲んでたと言うんですよ―興味深いでしょ、この話。
イェーガーらの空軍チームが、そんなウェルチらと(よりによって、その夕方に)同じパンチョの店で(端と端とに離れてにせよ)一緒に飲んでるなんて、たとえ一瞬でもありそうにないんじゃなかろうか―ここが引っかかってるんです、わたしには。
少なくとも(「ライトスタッフ」に描かれてるのとは違って)あの日の夕方以降にイェーガーらがパンチョの店にいた可能性はまずないのでは…(それが一次会にせよ二次会にせよ、空軍チームがイェーガー宅に集まったのは 4時半頃で、リドリーが基地に戻ったのが 6 時頃だったという記述もあるし)
おまけに、どうもパンチョ・バーンズは事態を正しく認識していたフシがあって、イェーガーの成功を手放しで喜ぶ一方で、それより先のウェルチの成功は完全に無視していた―
そもそもは 2 週間前の 10月 1日に、ウェルチの XP-86 によって起こされた最初のソニック・ブームがパンチョの店に轟いた時、それを(はるか 30マイルも遠くの明後日の方角にしかない)鉱山の発破か何かの衝撃音だと彼女は言い張ったそう―そんなことは過去に一度もなかったにも拘らず。
彼女とて(ひとかどの)パイロットでしたし、泊り客のウェルチが何をやってるのかは知ってたはずだから、10月 1日の時点で既にサウンドバリアは破られたと(どんなに認めたくなくても)分かってたフシが大いにあるんですよ。(が、まさかイェーガーより先にウェルチにステーキをゴチしなきゃならないなんて、考えるだけでも嫌だったのは間違いないでしょうね)
その日にイェーガーのお祝いがパンチョの店であった、なかったと諸説紛々する背景には(緘口令を敷かれたことと相俟って)そんな澱んだ空気と言うか、微妙でごちゃごちゃした雰囲気がある…という感じがしてならないんですが、どうでしょう?