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ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3075
 
関連レス―
 
いったい、史実とは何か? (2003/ 5/23
 
19971014日、チャック・イェーガーは、おんとし73歳で F-15 イーグルを飛ばし、自ら世界初の超音速飛行 50 周年を祝う。(いまだ記憶に新しいエピソードですね)
 
ところが、そのすぐ後 Air Force Times が↓このようなことを(まるで時効が過ぎたとでもばかりに)白状しております―
 
あの Yeager XS-1 よりも前に、実は George Welch XP-86F-86 セイバー)によって sound barrier は破られていた…!
 
ライトスタッフ」にもあるように、イェーガーの超音速フライトの成功は(しばらく)公表を差し控えて秘密にされてたが、ウェルチはそれどころじゃありません。
 
何せ、真の世界初超音速突破の偉業が完全に闇に葬られてたんですから―何と、半世紀の長きにわたって。
 
もともと既に第 2 次大戦中、例えばムスタングやサンダーボルトは超音速で飛んでいたとパイロット達の多くが信じてたらしいけれど、いくら何でもそれは話半分かホラ話、まあ眉唾でしょう。(激しい空中戦のさなかでは証明のしようがなかった、なんて言い訳にもならない)
 
特に、ムスタングとくればイェーガーの自家薬籠中のフェイバリット機、少なくともイェーガーがそう信じてたなんてことはありえない―なら何も XS-1で四苦八苦するまでもないし。
 
ただドイツの Me-163 Komet が(それこそ)とんでもないスピードで飛んでたのは確からしい―それも日常茶飯事って感じで。
 
にしても、 sound barrier を意識することなしにとまで言われると(せいぜい音速に近いだけで)やっぱ超えてるわけないじゃんって判定せざるをえない。
 
ですから、やはりイェーガー以前は誰も音速の壁を破ったものはいないと(ごく当たり前に)信じられてたわけです―半世紀にもわたって。
 
が、しか~し。
 
歴史の真実とは、なんと皮肉なものでありましょう。
 
ジョージ・ウェルチは「ライトスタッフ」に描かれたチャック・イェーガーの立場、まさにそれがウェルチの立場であるように(わたしには)感じます。
 
真に世界初の超音速飛行が行われたのは 1947101日、イェーガーより 2週間も前、2 回目が 1014日、奇しくも同日のイェーガーより(細かいけど)15分前くらい―そうやって 228日までに 23 回も超音速を記録。(同じ期間に XS-1 7 回飛んで超音速に成功したのは、わずか 3 回だけ)
 
従って何の疑いの余地もなく、こう言えましょうね―
 
世界で初めて音速を突破したのは、チャック・イェーガーではない。
 
それはジョージ・ウェルチという民間(North American)のテストパイロットなのだ、と。
 
―って、そりゃダイブでだろ?
 
と、純正ライトスタッフ・ファン諸兄は、ここで異議申し立てをされるに違いありますまい。(そう突っ込んで頂かなきゃ、わたしも張り合いがございません)
 
そうです―仰るとおり、「ダイブで」であります。
 
で、それが何か?
 
ダイブじゃ、いけないわけぇ?
 
別にダイブによる超音速は認められないなんて当時は誰も言ってなかったし思ってもいなかった、それは確かです。
 
それが証拠に、だからこそ逆に秘密にされ挙句に握り潰された―と、わたしは考えます。(でなけりゃ、追い風参考記録にすぎないとか何とか、いくらでも取り繕うこともできたはず、ちゃんと公表した上で)
 
ウェルチの偉業は半世紀にもわたって無視された。
 
その本当の理由は、いったい何なのか?
 
なるほど当初は、それを秘密にする至極もっともな理由がありましたね。
 
F-86 で音速を超えたなんて言っちゃうと、次期主力戦闘機の何たるかを敵に教えるようなもんじゃないですか、常識で考えりゃ。
 
イェーガーの成功をマスコミに発表しようとして止められた liaison man は「戦争は終わったのに(But the war's over.)」とか「ソ連は同じ連合国だthey're our allies.)」とか抗議してたが、まだまだそんな甘い状況じゃなかったはず―いつまた戦争になるか分らないんだから、秘密にもするでしょう、そりゃ。
 
現に、その後 朝鮮では例えばジョン・グレン F-86 で(ぶいぶい言わせて)ミグとわたりあったりするわけだから。
 
ところが朝鮮が片付いた後でも、F-86 が最初に音速を突破していたなんて、いつまでたっても発表されなかったんですね。
 
てゆうか、忘れ去られちゃったみたいな、あっさり。(と言うか、無理やり?)
 
それは、いったい何故なのか?
 
それは―空軍は、空軍のイェーガーを売り出そうとした。
 
それが理由なんですよ、わたしに言わせれば。
 
ウェルチは一民間のパイロット。
 
一方、イェーガーは現役ばりばりの Air Force officer (当時は大尉)。
 
ね、もうお判りでしょ?
 
早い話が、民間人が(うっかり?)最初に出してしまった超音速記録なんか、空軍としては公式には認めたくないってこと―それだけの理由。
 
それだけの理由でウェルチの偉業は完全に無視され、そして同時にイェーガーは音速の壁を破った最初の男として、その名声を享受し続けてきたんです―半世紀にもわたって。
 
いかがでしょう?
 
わたしがジョージ・ウェルチは「ライトスタッフ」におけるチャック・イェーガーの立場そのものだと言った意味をご理解して頂けたでしょうか。
 
この(ささやかな)秘密が公表される 40年以上も前の 1954年、ウェルチ F-100 A 墜落死しました。
 
最期まで皮肉なことに、F-100 A 垂直尾翼が小さいため不安定で危険だと、他ならぬイェーガーが訴えていた…
 
余談 1 ウェルチって、誰?
 
ジョージ・ウェルチは(知る人ぞ知る)真珠湾の英雄、あの奇襲のさなか P-40 で敵(つまり日の丸)を 4 撃墜する。
 
その模様は映画「トラ!トラ!トラ!」に(実名で)描かれてますね。(「パールハーバー」ではベン・アフレックらの獅子奮迅の活躍がそれ)
 
余談 2 ―ダイブでですけど、それが何か?
 
さすがに現在は空軍もウェルチを無視できなくなって、イェーガーの(いわゆる)世界初の超音速飛行の説明には、ちょっとした但書き(わずか三つの単語)を付け加えている―
 
即ち“in level flight”と。
 
in a dive で先を越されたと言外に認めてるような)
 
余談 3 ―ウォーレスって、誰?
 
イェーガーとウェルチは(さながら)進化論におけるダーウィンとウォーレスを(わたしには)思わせる。
 
どっちが先かと言えばウォーレスだけど、偉大なのはダーウィンのほうでしょう。(どっちかと言うとウォーレスのほうが好きなんですけどね、わたしは…)