【誰にともなしに、独り言レス―その3286】
その 186~190 (2003/11/15~16)
いったい誰が、運命の銃弾を放ったのか?
我こそは、と自己申告してる人物が(ひとまずブラウン大尉を除かせてもらうと)二人―ともに、地上からレッドバロンを銃撃したオーストラリア兵ですね。
ほうほうの体で自陣に逃げ込んだメイ中尉は、立ち木を掠めんばかりの低空を hedgehop (本人談)しますが、執拗に真紅のフォッカーDr.1 は追ってきます。
まず、Cedric Popkin が正面から向かってくる味方機のキャメルをやり過ごしてから、続くフォッカーを銃撃する― Vickers machine gun で。
地上からの対空射撃ですから当然下から上に向けてですが、この時は左右はともかく、明らかに前から撃ってますよね。
従って、弾道と一致しない―てゆうか、本人も外れたと仰ってるんで、この時は。
次にテグスネひいて控えてた射撃手が Robert Buie ―この方も、ブラウン大尉の主張に最初から激しく異議を唱えてた一人。
Popkin (と、他の何人ものオーストラリア兵)の対空射撃をものともせず、レッドバロンは更にメイ中尉を敵陣深く追い続けてる。(付近には、もはやこの 2 機以外カラスの一羽も飛んでなかったそうなので、ブラウン大尉の銃弾がレッドバロンに命中したという説は、いくら何でも捨て去ってしまいましょう、申し訳ないけど)
このキャメルとフォッカーの 2 機が、今や Buie の真正面からと言うか、メイ中尉が 20 ヤード後ろのレッドバロンにかぶって向かってきたと思って下さい。
Buie は Vickers と同じ .303口径の Lewis machine gun で距離 200 ヤードくらいから撃ち始めて、40 ヤードのところで(後から見てみると)弾切れするまで撃ち続けてたそう。
ところがです―その直前に、なぜかレッドバロンがメイ中尉への攻撃を突然止めたのに気が付いた…
そこで、Buie はパッと閃いたんですね― I've hit him! と。
ん~ そう閃かれてもなぁ… あんた、真正面から撃ってるし。
Buie が強弁するには、自分がレッドバロンの遺体を調べた限りでは、体の傷は左胸と腹部と右膝に三ケ所、全て正面から撃たれていたと。(あんたは検死官か)
つまり、一発の銃弾が右の背中から左の胸に貫通したとする検死報告を、あっさり全否定― This was not true. と。(あんたはスカーペッタか)
実のところ、検死報告については当初は色々と混乱があって、意見が食い違っていたのは事実のよう。
ですが、少なくとも現在では、一発の銃弾が入った右の背中と出ていった左の胸の傷こそが、いわゆる致命傷であったことに疑いの余地はない。 (それ以外は、かすり傷―下アゴが砕けていたが、それとて不時着の際に、どこかにぶつけたもの)
これも憶測ですけど、検死結果が混乱してた原因の一つは、イギリス空軍(及びカナダ)・サイドとオーストラリア・サイドとの思惑が微妙にと言うか、あからさまに絡んでたんじゃなかろうか、ひょっとして。
と言うのも、ブラウン大尉(彼はカナダ人です)が 6 日後にカナダの家族へ出した手紙には―
地上のオーストラリア兵は自分たちがレッドバロンを撃ち落としたと、あれこれ異なった主張をしているが、検死の結果では、その全てが誤っていると判定された
という旨の、何とも都合のいいことを書いてるんですよ。
どちらがと言うわけじゃなく、自分のとこに少しでも都合のいい検死報告なるものが、色々なされてたのかもしれませんね。
レッドバロンは、Buie の頭上を過ぎたところで、ついにメイ中尉を諦めたか、右に大きく旋回します。
Buie にしてみれば、自分の銃撃が機体に当たって破片が飛ぶとこさえ、しっかり見てるし、レッドバロンが突然攻撃を止めたんで I've hit him! と閃いちゃってるし、おまけにエンジン音が明らかに変わってスローダウンしてゆき、挙句に不時着するんですから、「我こそは」と確信しても、まあ無理もないか。
この状況を見れば、Buie こそが運命の銃弾を放ったと考えるのが、むしろ当然とも言えましょう。
が、しか~し。
Buie は殆ど真正面から撃っている―後ろからではなく、前からです。
従って、残念ながら弾道が一致しません。
Buie が何と言おうと、レッドバロンは後ろから撃たれてるんだから。
では、運命の銃弾を放ったのは、いったい…?
「ひよっこ」だったはずのメイ中尉は、あの後 13 機を撃墜して立派なエースになってます。(ブラウン大尉はレッドバロンを数に入れたとしても、その 10 機で打ち止め)
それを思うと、もしもわたしがシナリオを書くとしたら、あれは罠だったという筋立てにしたいですね。
つまり、メイ中尉は「ひよっこ」のふりした「おとり」だった。
レッドバロンを自陣におびき寄せておいて、上からはブラウン大尉が、下からは対空射撃が挟み撃ちにするという狡猾な作戦で、レッドバロンは(まんまと)その罠にはまってしまったんだと―
そんな想像をしたくなるくらいに、敵陣深くまで低空で、しかも単独で侵入するなんてことは、いくら大胆不敵で、なおかつ頭に血がのぼってた(かもしれない)レッドバロンといえども、ありえないっすよ―という気もするんですね、わたし。
ま、それはともかく、レッドバロンは Buie の頭上を過ぎたところで右に大きく旋回する。
さすがに、もうヤバイと思ったのか、81 機目は無理だと諦めて引き返そうとしたのか、単に Buie らの対空射撃をかわしただけなのか―
理由は何にせよ、ここにきて不意に U ターンしようとするんです、レッドバロンは。
皮肉にも、これが命取りになる。