【誰にともなしに、独り言レス―その3285】
その 181~185 (2003/11/13~14)
メイ中尉は、その日が初めてのパトロールだったそうで、予めブラウン大尉から敵と遭遇しても上空に待機して、戦闘になっても参加せずに引き返せと言われていた。
にも拘らず、いざ空中戦になると居ても立ってもいられなかったのか、渦中に飛び込んじゃいます―命令を無視して。(アホちゃうか)
そんな「ひよっこ」を百戦錬磨の「赤い悪魔」が見逃そうはずもないですわな、そりゃ。
哀れ「ひよっこ」メイ中尉は、「赤い悪魔」レッドバロンの 81 機目の獲物にクレジットされるべく、恰好のターゲットにされてしまう。
たちまちレッドバロンから後ろを取られたメイ中尉は、弄ばれるように駆り立てられ攻撃されるも、何とか自陣の低空へと必死に逃げ込みます。
それを承知か、それでも執拗に追い回すレッドバロンを、ブラウン大尉が急襲する―上から。
なぜかレッドバロンは、ここで自らが課していた空中戦における鉄の掟を完全に無視してしまっております―
- 敵陣内に入らない
- 低空を飛ばない
- 単独では行動しない
全部、破ってますな―魔が差したとしか… あ、もともと悪魔か、 ほんとはアホ?
憶測ですけど、さしものレッドバロンも、いささか冷静さを失ってたんじゃないですかね、その時。
と言うのも、「ひよっこ」(後にエースになってるが)相手に、ずいぶん手間取ってたような印象を受けるから。
実は、何とも不運なことに、そして「ひよっこ」にとっては全くもってラッキーなことには、レッドバロンのフォッカーの機銃が malfunction だったらしいんですよ、その時― 2 台の片方だけが、やっと単発で撃てるといった最悪の状態で。
それで焦って逆上―頭に血がのぼって、それこそ顔面 bloody Red Baron てな感じだったんじゃなかろうか。
機銃がまともに動いてさえいれば―
おそらくレッドバロンは 81 機目をアッという間に撃墜し、当然ブラウン大尉の不意打ちも受けず、それにもまして敵陣内の低空に単独で侵入するという自ら部下に厳しく禁じていたはずの自殺行為など(よもや)やらかさずに済んだものを…
後年の、手記の体裁を取った "My Fight with Richthofen" なる記事によれば、この時ブラウン大尉は、彼の銃撃によって死んだコックピット内のレッドバロンを確認している―
Then he crumpled - sagged in the cockpit ... Richthofen was dead.
おそらく「レッドバロン」の最期のシーンは、この手記のイメージなのかも―いかにも安手のドラマチック仕立てだから。
むろん、実際に本人がどこまで関わってるのかはともかく、これがいい加減なホラ話であるのは明らかでしょう。
そもそも、ブラウン大尉が「わたしがレッドバロンを撃墜した」といくら公式に主張しようと、そして確かにマンフレート・フォン・リヒトホーフェンのフォッカーDr.1 が、アーサー・ロイ・ブラウンの 10 機目のクレジットとして公式にイギリス空軍に認められていようと、本当のとこはそうではなかったと言わざるをえない―
レッドバロンを死に至らしめた銃弾を、ブラウン大尉のソッピース・キャメルが放つことは、およそ不可能だったからであります。
レッドバロンの心臓を貫通したであろう銃弾は .303口径。
ソッピース・キャメルは、コックピットの正面に 2 連の Vickers machine gun を搭載しており、その口径は .303インチだから、この点に問題はない。
問題は、銃弾そのものではなしに、その弾道―
検死結果は、運命の銃弾はレッドバロンの右の斜め後ろから、かつ下から撃たれたことを示していた。
ブラウン大尉がレッドバロンを攻撃したのは、右側からではなく左側からというのが有力ですが、それは断定できないにしても、それでも上からというのは確実―状況から見て、そして本人の証言、目撃者の証言からも、それは断定できる。
ブラウン大尉のソッピース・キャメルは、上からレッドバロンを銃撃した。
だが、レッドバロンは下から撃たれている―
よって、運命の銃弾を放ったのは、ロイ・ブラウン大尉ではありえない。
仮に、ブラウン大尉の放ったのが「魔法の銃弾」だったとしましょう―
上から、そして左側から撃った銃弾が、魔法の力で下から上に向かって右の背中からレッドバロンの心臓を貫通したんだと。
いや、それよりも現実に絶対にありえないとは言いきれない状況―例えば、宙返りでもした状態のフォッカーを、上から銃撃したとしたら、ひょっとして同様の弾道を描くことができるのかもしれない。(誰一人として、そんな目撃証言はしてないが)
しかし、そんなアクロバチックな仮定をしたとしても、ブラウン大尉の放った銃弾が命中した瞬間、(鉄の心臓でもない限り)殆ど即死状態だったはずのレッドバロンが、その攻撃の後も依然として(わたしの推定では、時間にして 1分弱、距離にして 2 マイル近く)メイ中尉を駆り立て続けているという厳然たる事実を、どう説明するのか―これは、多くの目撃証言から間違いのない事実。
つまり、どう考えてもブラウン大尉の銃撃は外れたと見るのが自然―外れたからこそ、尚もメイ中尉はレッドバロンに追われ続けてるわけです。
では、運命の銃弾は、いったい誰が―