独り掲示板

ライトスタッフは名作です-2

独り言レス

【誰にともなしに、独り言レス―その3258】

 

その 900~905

 

月面からの TV 映像が思いのままにならず、もっと地質学者が優遇されていたらジャック(シュミット)に専用のカメラを持たせたのに(If it had been a perfect world for us geologists, Jack would've had his own TV camera. Just for the ground science team.)とシルバー教授は悔やむ―地質学チームが詰めて映像をモニターする部屋が「バックルーム」 the geology "back room" at Mission Control (←訳は「管制センター 地質学室」)と呼ばれてることも何となく(日本語的には)裏方めいた雰囲気が漂うし。

 

NASA がファイナル月ミッションとなったアポロ17 で(やっと最初で最後となる)科学者を搭乗させたのは、ただ月に物見遊山に行ってるだけじゃない意義のある科学ミッションなんですよと(無関心なくせに批判的な)世間にアピールして単に体裁を付けてるにすぎない―そんな側面もあって、地質学者はオザナリな扱いというのが実態だったか。

 

シュミットが「NASA は自分を選んだことを後悔したかもしれない(探索地などの持論を頑固に主張したから)」(They might have rued the day that they made the change. I always had strong ideas about where to go on the moon, and forcefully suggested them.)と語るシーンもあるように、NASA と地質学チームとではミッションに対するコンセプトに少なからずズレ(温度差)があったのは確かだと思われる。(その2956参照)

 

 

クリス・クラフトが―

 

「50ドルとドーナツ一箱賭けてもいい 最後に月を歩いた二人の名前は誰も知らないはずだ なぜかと言うと生きて帰ってきたから」(I will bet you fifty dollars and a box of donuts that no one knows the names of the last two men to walk on the moon, and I will tell you why. Because they didn't die up there.)

 

と世間の無関心ぶりを語るシーンがある。

 

この見解はやや極端にしても(わたしは現に少なくとも 25ドルとドーナツ半箱分は知っておりましたし)、そのジーン・サーナンの月面ラストスピーチが(アームストロングの歴史的な第一声とは違い)殆んど知られていないのは確か。

 

むろん「人類、月に立つ」ではちゃんとカバーしていて、サーナンは最後の船外活動を終え LM に戻る際に―

 

「今日のアメリカの挑戦は人類の明日を前進させました そして我々は訪れた時と同じようにタウルス・リトロウを去ります 我々は再びこの地に戻るでしょう 全人類の平和と希望のうちに」 ("America's challenge of today has forged man's destiny of tomorrow.  As we leave the Moon at Taurus-Littrow, we leave as we came, and God willing, as we shall return, with peace and hope for all mankind.")

 

と一席ぶつ。

 

そして今や常套句となった感のある "Godspeed the crew of Apollo Seventeen." で締め括っております。 (←吹き替えは「アポロ17号に神の御加護を」―その3204~3205参照)

 

 

アポロ17 にはサーナン船長の密かなプライベート・ミッションがあって、それは愛娘のトレイシー Teresa("Tracy")Dawn Cernan の名前を月に残してくるという約束―この逸話も描かれている。

 

サーナンは結局(LM に戻りしなに)月の地面の砂に TDC と書き辛うじて任務を全うするけれど、当時を振り返って語るには―「あそこでやるべきだった あのでかい岩にトレイシーのイニシャルを刻めばよかった きっとものすごくカッコいい絵になっただろうにって後悔したよ TDC の文字があそこに永遠に残るなんて凄い でも疲れてたし忙しくて思いつかなかった」(I thought later on, "If I had just put Tracy's initials on a boulder "that would have been an incredible picture." You know? "TDC" in the lunar dust up there for the rest of time but hell, I was so tired and so busy the opportunity got away from me.)

 

サーナンの言ってるのは Station 6 boulder (Split Boulder at Station 6)と称される巨大な岩のことで、それに名前を刻むなんてのは(吹き替えの字面どおりの意味だとすれば)世界遺産に堂々と落書きをする不埒者と同レベルのアホな発想だろうから、むしろ思いつかなくて幸いだったんじゃ… (←そもそもアポロ計画そのものが月の環境破壊だというご意見も当然ありましょうし)

 

サーナンは(原文では)on a boulder と言いつつも、ちゃんと in the lunar dust と表現してますけどね。

 

※ もとは Station 6 boulder と Turning Point Rock を混同していた(今でも一緒くたにしてるページがある)が、両者は別物(地点が別)で Station 6 にはサーナン船長の運転するローバー(LRV)で Turning Point Rock 経由で至っている(en-route to Station 6 via Turning Point Rock)

 

 

で、これには(「人類、月に立つ」では触れられていない)有名な後日談があって―

 

その主人公はアル・ビーン、アポロ12 の LMP だったビーンの説明では―

 

He(Cernan)said he wishes he had thought of writing his daughter's name in the dust, but the idea didn't come until he got back home.

 

となっていて、あくまで writing であり in the dust ですから、岩肌に直に刻み込むというニュアンスでは全然ありません。 (←サーナン自身は "print" と表現してもいるようで、確かに彫る engrave といった意味合いではあるにせよ、それでも真意は「岩に刻む」ではないんじゃなかろうか―そんな悠長なマネをしてる暇などないのは分ってたはずだし)

 

それを地球に帰還してから思い付いたというサーナンの話を聞き、絵心のあった(←Part 7で宇宙飛行士をデッサンしてるとこが映る)ビーンは the left side of this massive boulder 上の(岩肌にではなく)dust に "Tracy" と書き加えた画(Tracy's Boulder)を描く―これでジーンは遥々そこ(Station 6)まで戻らなくて済むし、それに費やされる巨額な税金の節約になるとのコメント付きで。(The sheer romance of Gene's idea was so appealing that I gave him a blank sheet of paper and asked him to write Tracy's name the way he would have wanted it in the dust on the Moon. Then I got to work with my paint brushes. As Gene's friend, I have employed artistic license to save him the long trip back to Station Six, not to mention the monumental savings to all us taxpayers.  - Alan Bean Gallery)

 

かくして、その岩は一般に “Tracy's Rock” と称されるようになったという次第―

 

この Alan Bean Gallery で他にも多くの Astronaut/Artist(a moonwalker-turned-artist) の作品を楽しめます